アセス情報 080122
         
普天間飛行場代替施設アセスの2回目の方法書への2度目の知事意見
                         ― 県担当者・審査委員への不安
                                   島津康男

2回目の方法書
 普天間飛行場代替施設のアセスが混迷の中で進行している。平成16年4月に沖合案についての方法書が出たが、強引な事前調査への漁民の抵抗・海岸での座り込みの反対運動が続く中、立地の協議が進まないとして事業者の沖縄防衛局が取り下げていた。そして、3年たった平成19年8月7日に改めて沿岸案についての方法書を出した。これが2回目の方法書である。民家への騒音・安全性からは、沖合案の方が相対的に影響は少ないが、沿岸案への変更には、ジュゴン・サンゴ礁の保全の他、漁船による阻止運動への対策もあるようである。
  ところが、立地協議がまだ終わってないとして、沖縄県知事が受取りを留保するという想定外の行動に出、本来、県庁や地元の行政機関で縦覧するはずなのに、防衛局は地元名護市のホテルの一室で縦覧をするといった異常事態になった。確かに、環境影響評価法では、「事業者は方法書を公告・縦覧しなくてはならない」と定めているが、知事には「意見を述べるものとする」となっており、「受取らねばならない」「意見を述べなくてはならない」とはいっていない。アセスの手続きはあくまで事業者の責任で行なわれるものなので、知事には強制義務はないのである。逆にいうと、知事が受取らなくても、また意見を述べなくても手続きは進行する。一方、住民の意見提出は進行し、このこともあってか、知事も10月24日になって受取り留保を解除し、12月17日に審査会の答申、12月21日に知事意見の公表が行なわれた。これが2回目の方法書に対する1度目の知事意見である。
2回目の方法書に対する1度目の知事意見(12月21日)
  その前文では、主要な計画諸元である飛行場区域、作業ヤード及び埋立て土砂発生区域の面積・位置が不明、航空機装弾場及び大型岸壁などの記載がなく、審査するに足る内容ではないとした。ところで、どのアセスでも、その対象になるのは工事段階と供用段階との二つである。上記の知事意見でもこの両者とも記載内容が不十分としており、前者については埋立て工事自体が、後者については航空機の機種及び数が明らかになっていないことを特に問題にしている。
 それにも係わらず、前文の後に来る総括的事項では、「準備書を作成するまでの間に環境項目・手法を再検討し、その内容を調査の着手前に県と協議し、その結果を公表すること」と、問題先送りの意見となっている。そして、「現在、事業者が実施している環境現況調査は、ジュゴンやサンゴ類等の生物的環境への影響が懸念されることから、これらの実施による環境への影響を十分に検討した上で調査の中止も含め検討する必要があるとの審査会からの指摘があり、事業者においては十分配慮する必要がある」と遠まわしに事前調査に文句をつけている。1回目の方法書の時には、サンゴ礁の現地調査、今回はジュゴンの回遊調査のためのソナーの海底設置が、それぞれかなり荒っぽい方法で行なわれていることに対する遠慮がちな指摘といえる。
2度目は埋立てのアセスなのか、方法書の修正なのか
 
以上の不記載事項に対しては、審査会が審査中に35項目76項目の質問書を送って回答を求めたのであるが、その回答の多くが「決定しておらず回答困難」であったので、見切り発車の形で上記のような「準備書作成までに再検討」となったものである。ところが、20年1月11日になって、事業者である沖縄防衛局は、150ページに及ぶ「普天間飛行場代替施設建設事業に係る事業内容の説明資料(公有水面の埋立て)」を出し、問題がより複雑になった。そこでは、埋立て用材が1700万?に達することが初めて明らかになったが、購入先を特定していないものの事業区域外からの搬入になることとしており、その場合採取行為そのものが新たにアセスの対象になる。護岸工法については3つの代替案を示し、もっとも工期の短い案(5年)を採用するとしている。
  実は、「公有水面埋立て」は知事が許可権限を持つ事業であり、これは飛行場とは別個のアセス対象事業でもある。一般的に、埋立て後は飛行場にするとか最終処分場にするとかいろいろの用途がありえ、埋立てだけで終わることはないが、現実には埋立てとその後の施設を別々のアセス対象とせず、1つのアセスの中で建設段階・供用段階として扱うのが普通である。そこで、1月11日の説明資料を、8月に始まった第2回目のアセスの中での追加資料とみなすのが妥当であろう。
  つまり、これを審査会の質問に対する追加回答とみなし、審査会は改めて審査をして僅か1週間後の1月18日に答申を行ない、引き続き1月21日に改めて知事意見を公表したことところである。丁度1ケ月をおいて2度の答申を行なったことになり、これだけでも異例といえる。それにしても、なぜ埋立て計画が出来てから1度目の方法書を出さなかったのであろうか。しかも、建設段階・供用段階ともにまだまだ未確定なところが多いのであるから、アセスをしながらずるずると事業内容を小出しにして、アセスを形骸化する第一歩となっている危険が大きく、この段階での判断はアセスへの認識にとって重要な意味をもつ。これは、後で述べる「出し直し」の問題につながる。
 なお、追加資料の出し方からみて、事業者はアセスと公有水面埋立とを使い分ける可能性がある。つまり、いざとなると二つの手続きを別個に扱い、アセスは適当にお茶を濁しておいて、埋立てを進める危険がある。そのあたりのちゃんと見抜いて対処する力が県にあるかが問題である。
 2回目の方法書に対する2度目の知事意見(1月21日) 
 丁度1ケ月をおいて出された2度目の知事意見は工事段階についての追加資料のみを対象としているのでなく、供用時をも対象とした2度目の答申の形をとり1度目と重複する部分が大半なので、話を複雑にしている。それにもかかわらず、1度目において「準備書を作成するまでの間に環境項目・手法を再検討し、その内容を調査の着手前に県と協議し、その結果を公表することと」とあったのが、2度目では「事業内容がある程度想定できる段階において書き直しをする必要がある」と、一歩厳しい表現となり、その一方で「準備書を作成するまでの間に環境項目・手法を再検討し、その内容を調査の着手前に県と協議し、その結果を公表すること」との先送りの趣旨は変わっていない。
  事前調査については、審査会が「現在、事業者が実施している環境現況調査は、ジュゴンやサンゴ類等の生物的環境への影響が懸念されることから中止させる必要がある」と述べたのに対し、知事意見では「中止させる必要があるとの答申を踏まえ、事業者において十分配慮し、本意見に基づいて適切に調査を実施する必要がある」とトーンダウンして、問題を先送りにしている。第一、中止を念頭におきながら事前調査を継続するというのは矛盾ではないか。本来、現況調査は方法書の手続きが終わってから開始すべきものであり、アセス手続き開始前の事前調査には余程の理由が必要なのである。
 「書き直し」よりも「出し直し」を 
 「書き直し」は骨の部分を認めることを意味するから、一度撤回してからの「出し直し」とは異なる。これまでの事業者の行動からみて、小出しに追加・修正を繰り返せばいいと思っているのであろうが、問題を先送りしてなし崩しに手続きを続けるのはアセスの形骸化そのものの行為であり、「撤回させ」そして「出し直し」を求めるのが適切ではないか。
 平成17年に、環境省は「環境影響評価の基本的事項の改正」を指示しており、そこでは、「技術指針に定める調査・予測に関する標準項目・標準手法をそれぞれ参考項目・参考手法とすること」「予測の不確定性の検討に当たっては、前提条件を変化させて結果の変化を見ることにより、不確実性の程度を把握すること」など、事業の特性・地域の特性、不確実性に応じてメリハリのあるアセスにすることを求めている。この指示は本件の1回目の方法書以後に出たものであるのに、2回目の方法書での環境項目の設定内容は1回目と変わらない在り来たりの方式のままであり、メリハリへの努力が見られない。例えば、生態系のアセスでは、最近HEPといった新しい定量的評価技法が取り入れられており、ジュゴンの予測・評価にはこの採用が適切と考えられる。全般的に、2回目の方法書には基本的事項の改正を受け止める誠意が見られず、これも「書き直し」より「出し直し」しが妥当との結論の理由になる。
 「出し直し」の根拠は環境影響評価法の第28条「事業内容の修正の場合の環境影響評価その他の手続き」にある。すなわち、方法書の作成に係る第5条の「対象事業の目的及び内容」に変更がある場合は、方法書・準備書・評価書のどの段階にいても、方法書の作成からやり直さなくてはならない。変更かどうかの判定は微妙であるが、規模の縮小は影響の縮小につながるとしてやり直しの要件に当たらないものとしており、その代り事業区域の市町村が変わる場合は、市町村長の意見を聞く先が変わるので、規模の縮小でも手戻りの対象になる。愛知万博の場合、主会場が変更されて、瀬戸市から長久手町に変わったが、一部を瀬戸市に残したため、出し直しの対象にならず、その代り事業者の判断で、「事業者の見解」のタイトルで実質上の方法書出し直しを行ない、公告・縦覧をしている。
 ここで、[出し直し]の必要条件は、公告・縦覧の手続きを経て、改めて住民意見を聞き、審査会の審査を経て知事意見を出すことである。「書き直し」では、これが保証されない。
県のアセス担当者・審査委員の実力への不安 
 本件については、沖合案から沿岸案への事業内容の変更に伴い、事業者の判断で2回目の方法書を出し直しているのだから、計画内容の確定に伴って小出しにずるずると方法書を修正するのでなく、特に機種・飛行回数・地上飛行ルートを含む沿岸案の確定及び埋立て資材の採取・搬入計画の確定を待って出し直したらどうか。滑走路の位置を何メートル沖に動かすかの調整が行なわれているのであるから、その結論が出た時も1つの節目であろう。事業者は2月から準備書作成の段階に進むことを考えていると聞くが、とんでもない話である。
アセスと公有水面埋立て法との関係にまつわる心配については前にも述べた。ややいい難いことであるが、県と防衛局との力関係にやや心細いところがあり、アセスの範囲内でも事業者の弱点や強弁を論理的に突いていく力の点で、行政担当者にも審査委員にも弱いところがあるのは心配である。これには、生態系の定量評価の技法などメリハリのあるアセスのための新しい技術に対する理解力も含まれ、実際にアセス実務をしているコンサルタントの実力との差も含まれる。
 戦略アセス・PIの適用を考えては
 環境影響評価法は10年で改定することになっており、それは目前に来ている。そして、立地選定の段階にアセスを行なう、いわゆる「戦略的環境アセスメント(略して戦略アセス)」が改定の目玉となっている。そこでは、複数の立地案を比較評価することが求められ、すでにいくつかの地方自治体では先行実施に踏み切っている。事業実施段階に行なわれる現在のアセスでも、「伊良部大橋」「八重山リゾート」と代替案の比較を行なっている事例は、沖縄県にも前例がある。
  翻って普天間飛行場代替施設のアセスを振り返ると、沖合か沿岸かの立地が問題の中心あったのだから、正に戦略アセスの適用対象なのである。目前の法改正を考え、現行のアセスで駆け込み強行突破することを考えているとは思いたくないが、既に先行事例が各地で出てきていることもあり、防衛局は戦略アセスを考えに入れる時期に来ているのではないか。その戦略アセスでは、大気・水・生物などいわゆる物理・自然環境だけでなく、計画の費用効果、地域社会への影響といった経済・社会環境をも予測・評価の対象にすることが求められる。そこで、沖合か沿岸かの代替案の比較自体がアセスの対象となり、さらに地域社会への影響には、地元建設業界の参入の可能性が重要なアセス項目に入ってくる。逆にいうと、本件にこそ戦略アセスが必要なのではないか。そして、沿岸案すら確定していない今こそ戦略アセスの対象なのである。
  一方、沖縄県では、那覇空港の拡張・ゆいレールの延伸と、いわゆる市民参画型計画(PUBLIC INVOLVEMENT)が進行中である。事業の所管省が異なるといえ、住民の視点に立った場合、本件がこの動きと無関係でいいのだろうか。アセスは環境への影響を最小にするためのツールであるとともに住民との合意形成のツールでもあることに、県のアセス担当者も審査委員も配慮してほしい。
  さらにいえば、米国国防省は本件のアセスに関心をもっているといわれるし、日本の防衛省よりも真剣であることも想定される。日米共同のアセスを視野に入れるのは突飛だろうか。思いやり予算による米国業者のアセスを提案するのは極端すぎるだろうか.米国型のアセスは当然戦略アセス的であり、市民参画型である。県の担当者はどう思っているのだろうか。

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