アセス情報 08071322
        
                 諫早干拓問題の新展開
                               島津康男
2回目の裁判 
 今から11年前の1997年4月に7kmの潮受堤が完成し、
700haの干拓地、2600haの調整池を作って農業を開始してきた諫早干拓については、
関係する福岡・佐賀・長崎・熊本の漁民が、
有明海の漁業環境悪化を理由に2002年に工事の差し止め訴訟をおこし、
2004年に、佐賀地裁が、事業と漁業被害との因果関係を認めて、
干拓工事の差し止め仮処分を認めたが、
2005年になって福岡高裁は仮処分を取り消し、
さらに最高裁も原告の抗告を棄却して工事は再開されていた。
上級審の保守性がここでも見られる。
 そこで、工事完成を前に、2006年には
請求内容を「潮受堤防の撤去と排水門の常時開門」に変更して
再び訴訟をおこしたものである。
 この訴訟の佐賀地裁の判決が本年6月27日にあり、
「環境変化の調査のため5年間排水門を常時開門する」よう国に命じた。
さらに、「原告が求めた開門による影響の調査を国が実施しないのは、
立証妨害と同視できるといって過言でない」と因果関係についての国の反証責任を批判している。
当然ながら、被告(農水省)も原告も控訴したが、前とは事情が少し変わっている。
すなわち、7月11日に農水大臣は「開門の前段階としてアセスを実施する」といっている。
さらに「開門をするためのアセスだ」と付言しているのは大変重要である。
これでは、「事業を実施することを前提のアワスメント」の繰り返しで、アセスの冒涜に他ならない。
アセスの再登板 
 振り返ると、この諫早干拓では既に2回もアセスを実施しているのである。
すなわち、1979年には、九州農政局(当時)が
「長崎南部総合開発計画に係る環境影響評価」を実施したが計画が流れ、
さらに1985年には長崎県が「諫早干拓に係る環境影響評価」を行っている。
20年前のアセスが今も有効とはいわないが、
後者のアセスは明らかに今回の問題の出発点なのであり、
その不十分が今になって露呈している面は見逃せない。
 更に、本年3月31日には、
農水省が長崎県に対して「諫早干拓事業環境影響評価レビューのフォローアップ報告書」を公表しており、
さらにこの報告書に対する環境省の見解までがでているのである。
そこでは、「新干拓地での営農活動に伴う排出負荷や調整池内のヨシ植生域の進出による巻上げ抑制効果など予測の前提条件について不確実」
「調整池の排出水が諫早湾に与える影響の解明が不十分」
「諫早湾の底層の溶存酸素については、締め切り前のデータがない
」「潮受堤防前面部の干潟再生状況について調査が必要」など、
本来行っているべきことをしていないのは驚くべきである。
アセスを逃げ口上にするのでなく、その前に抑えるべきデータが沢山あることを肝に銘じてほしい。
諫早と始華
 諫早干拓というと、何かと引き合いに出されるのは韓国の始華干拓であろう。
ここは、ソウルから一時間のところにあり、干拓面積17、000ha, 潮受堤防の長さ12.6kmと
諫早干拓よりかなり大きい。
諫早のある有明海は日本で一番干満差が大きいところであるが、
始華はこれをはるかにしのぎ9mもある。
私はこの干拓をずっとウォッチしてきたが、
1987年に着工し諫早より前の1994年に締め切りを完了した途端に内湖の水質が悪化し、
BODが3mg/lから24mg/lに上昇して、1998年に排水門を開けることになり、
「諫早は始華に学べ」といわれた。
諫早裁判の原告がここを訪問しているのに出会ったことがある。
水質悪化の理由は、着工時に4万だったこの地区の人口が、
排水門をあけた1998年にはソウルの衛星都市として50万(現在70万)になり、
そこの工場・家庭排水が流入したからである。
干満差が大きいという点で諫早と始華は似ているが、
産業・人口形態が異なっているだけでなく、外海との関係が異なっている。
すなわち、諫早は有明海の内湾であり、
しかも有明海自体が天草諸島で外海から塞がれている。
これに対し、初華は直接に黄海という外海に面しているので対応は楽である。
現に、排水を臨時にパイプで数キロ先の沖合に出している。
その一方、流入河川の川口に100haの人工湿原を作って水質浄化(排水のBOD8mg/l)を助け、
ここは渡り鳥の聖域になっている。
さらに、潮受堤防を保存したまま排水門を増やして、
世界有数の干満差を利用した25万KWの潮力発電所を建設中である。
もともと、始華は農業用地をうるための事業であったが、時代も変わり、
グリーン工業団地の計画を含め、干拓の失敗を取り戻そうとしているわけで、
この点は諫早も学ぶところがあろう。
始華の潮受堤防は土盛りなので排水門を増やすのが大変だが、
諫早はギロチンの名で有名な鉄板を連ねた堤なので、
既存の排水門だけでなく、場所や幅を変える自由度が大きい。
アセスをするからには
  「アセスをする」といった以上、農水省はちゃんとしたアセスをしてもらいたい。
それにはアセスの手続きに従ってまず方法書を公開すること、
開門するかしないかだけでなく
排水門の幅と位置を含めた複数の代替案の比較評価を行うことが必要であり、
それには「海流、水質、底質の海洋環境だけでなく
生態系の多様性をまともに(定量的に)扱う」
「開門の有無による治水・利水効果を含む農用地の安全性や海域での漁業を含め経済社会環境を扱う」
ことが含まれる。
時代の変化、アセス技術の進歩に応じて、
諫早干拓についての過去2回のアセスとの違いを明確にすることが大事である。
新しく出る方法書の内容が待たれる。
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