アセス情報 081206
   普天間飛行場代替施設建設事業の環境アセスメント準備書が出た(続報)

                        島津康男
 速報で予告したように、事業者の沖縄防衛局は公告縦覧の開始から1週間たった4月9日に準備書の本編をホームページに電子版として載せた。「ジュゴンネットワーク」など市民団体の要求に応じたものであるが、おかげで、現地まで行かなくても実物を見ることが出来るようになった。市民団体のご努力に感謝するものである。
この続報では、本編の電子版が出たことを周知するとともに、私が読んだ範囲で準備書本編の焦点を紹介する。これまで何度も述べているように、私見では本件は日本の環境アセスメント史上でもっとも独善的かつ最悪の事例であり、「アワセメント」の末期症状ともいえる。戦略的環境アセスメントの本格的導入という、新しい事態を迎える本年にとって、総括をちゃんとしておくべき事例と考える。ここでは、これまで余りいわれてこなかったドキュメンテーションの問題の再論と、飛行場特有の問題である騒音及び地域性の面で目玉であるジュゴンとについて述べる。

ドキュメンテーションをもっと重視して 5400ページ(3分冊の合計)といったが、実はこれは市民団体がいっていることで、私は正確なページ数を数えてない。章建てのページつけになっており、最も長い「第6章 調査結果の概要並びに予測・評価」となると、環境項目ごとに6―2―158などと3段構えのページ建てになっていて、しかも、電子版は章の途中で適当に分割しているので、10個の章が平均4MBのPDFファイル198個となり、これまた出力してみないとページ数の計算ができない。例えば詳しく読んだジュゴンの章は229ページあった。
 要約版についての速報でも少し触れたように、準備書の体裁自体にも問題がある。このように厚い印刷物を普通の形態で製本すると、開いてもページが平面にならず、本件のように縦覧のみで貸し出しができない場合、デジカメでの撮影も出来ない。これを避けるには、二つの方法があると考える。
 第一に、製本をバインダー形式にすることである。これにより、閲覧時に分離してグループで分担して読めるし、必要なページを切り離せば撮影するのにも楽である。現に、愛知万博の時には評価書の段階(1600ページ)でバインダー方式を採用した。
 第二に、今回のような電子版の採用がある。これで、縦覧場所に行かなくても読めるようになる。愛知万博の時には、文書版をバインダー形式にするとともにCD-ROMによる配布も行っている。そもそも、環境アセスメントには、情報を公開して住民との合意形成に資するという大きな役割があり、そのための具体的方式としてドキュメンテーションの工夫がある。「わかりやすい」とは「文章表現のわかりやすさ」を意味すると思いがちであるが、それだけでなく「親切な対応」も重要なのである。
 本事例が例えば愛知万博の前例に学ばなかったのは残念であるが、今後のためのよい体験になったことは確かであろう。一挙にCD―ROM版だけにするわけにはいかないだろうが、文書による配布よりもはるかに経費が少なくて済むことは確かであり、受託コンサルタントも積極的にドキュメンテーション改革への努力を提案すべきではないか。
ホームページへの掲載にしろ、CD―ROM版の配布にしろ、単純にPDFファイルにしただけでは、特に本件のように情報が大量の場合には読みにくい。しかも、本件の場合、事業者が恣意的にそれぞれの章を分割ファイルにしているので、全体の流れをとらえるのが大変である。愛知万博の時のように、トップメニューを設けてそれぞれの章に飛べるようなリンク編集が必要であろう。なお、前に述べたジュゴンネットワークは、このリンクファイルを付けたCD―ROM判を作成している。出来れば、キーワードによる索引をつけたいところである。せめて、評価書にはその形式を採用することを求めたい。そして、ドキュメンテーションとはそこまでのサービスを含むことを注意したい。自治体によっては、閲覧場所を図書館にして夜も読めるようにしているところがあるが、これも「親切」の一つであろう。「閲覧だけ コピー不可」も不親切の一つだが、こう分量が多くては、はじめから「読んでもらう」気のない役所仕事としか思えない。「説明会」「公聴会」もサービスの一つで、ご意見拝聴のための儀式ではない。愛知万博では、求めに応じて事業者が出かける「夜の出前集会」を行ったし、最近流行っているPI(住民参与)型の協議会も開いており、これが会場変更の結果をもたらした。沖縄でも、「那覇空港」「那覇モノレール延伸」事業でPIを実施している。
住民も、印刷物以外の形式の情報への慣れを望みたい。それにしても、5400ページの情報を家庭用のプリンターでダウンロードすれば、消費インクだけでも大変だし、第一プリンター自体がオーバーロードになってしまう。そこで、紙に落としてよむのでなく、パソコン上で読むのに適した上記の編集方式を事業者側も本件の評価書の段階に配慮していただきたい。

航空機騒音は大丈夫? 飛行場施設で騒音は象徴的な環境項目であり、最大の関心事でもある。又、予測手法がマニュアル化されている点で、現在のアセスメント技法の典型でもある。私は、速報の段階で中部空港の例にならい、「公開の実機デモ飛行」を提唱したが、準備書の本編の中にある参考資料)をみると、平成13年に米軍ヘリコプター4機による現地テスト飛行を行っている(掲載場所は6―3―114)。日時の公開をした上かどうかは不明だが、前言を訂正する。なお、くどいようだが、騒音の予測では、事業者は方法書にその結果を載せるという暴挙をしている。
それにしても、予測結果を見る限り、飛行コースによっては、大浦湾を隔てて東側の岬にある安部集落では「(影響なし」)といえない。中部空港の場合、実機デモ飛行の結果から、滑走路の位置を100m沖にずらし、かつ方向を11度変更した。しかし、本件の場合、海岸線の形状から、方向変更だけでは東側への影響を少なくすると西側の影響が増えるというトレードオフになるので、沖だしをする他ない。微小な沖だし修正は知事の要望でもあり、そのためかこの修正案比較を行っているが、そこでも、東側の安部集落の騒音は微妙である。

ジュゴンのなぜ? 本件において、地域性の象徴であるジュゴンに229ページを割いている。環境省や市民団体による既存資料を利用している他、この環境アセスメントのために
 生息状況 小型飛行機による広域調査、発見時にヘリコプターによる追跡
 藻場利用状況 調査船で潜水調査員を曳航、
見つかったはみ痕での定点観察
水中ビデオによる観察
海底に設置したパッシブソナーによる移動状況観察
を、いずれも2年間にわたって毎月数日実施している。その経費だけでも大変なものであろう。なお、方法書公表以前から現地調査をしていることは、厳密にいえば手続き違反だが、ここでは目をつぶる。
現地調査の結果、1頭の生息とその行動を把握したが、その結論は「事業計画地の辺野古とは大浦湾を隔てて5km東の嘉陽集落の沖に限られ、はみ痕もこの区域のみで、辺野古地区には来ていない」というものである。そこで、「事業実施には影響なく、工事期間及び供用後も、船の航行に注意すればよい」というのが結論である。なお、この調査では、沖縄本島の黄海側にある古宇利島沖でも2頭(親子)の行動が確認されており、しかも古宇利島沖から事業計画地のある大浦湾まで回遊してきた可能性がある。「これだけ金を使ってやっと見つけた3頭は幸いにも事業予定地の周辺に来なかった。だから、大丈夫としよう」と事業者が考えているとしたら、以下のようにそれは間違いである。
なぜ、この二つの地区だけに住んでいるのだろうか。又、辺野古地区には広く良好な藻場があるのに、なぜジュゴンは近づかないのだろうか。調査関係者の動きで危険を察しているのだろうか。予測のためには、まずこれらの「なぜ」への答えがなくてはならず、しかも同じような調査を長く続けるだけで答えが出るとは限らない。フィリピンなど遺伝子が同じで生息数の多い地区での生態データも必要である。つまり、環境省が適用を薦めている「定量評価」への道は遠いのである。この定量評価に使われるHEPも、ジュゴンの生態データが今の程度では使えない。
同じ生物の章に「一部の底生生物は移動する」という保全措置の記載があるが、ジュゴンをつかまえて移動させるわけにはいかない。このように、「他にもあるから大丈夫」といったこれまでの合言葉が通用しないのがジュゴン問題の難しさである。事業者にとって、ジュゴンは目の上のコブで、運が悪いと思っていることは確かだが、調べてはじめてわかったのでなく、それ以前の資料から知られていたのだから、ある意味で事業者は結論をはじめから決めていた確信犯といえる。そして、「なぜこうなのかがわからない場合は手をつけないで見守っていこう」の勇気も必要ではなかろうか。
「一頭いるだけじゃないか」ではなく「一頭でもいる」ことが大事なのである。昨年でたアメリカでの判決では「基地建設によるジュゴンの影響を回避すること」としているが、それへの答えが出ているとは思えない。事業の効果(日米協定の合意条件だけでなく、地元の建設業界への効果まで含めて)とジュゴンの価値とを比較して判断するのでなく、ジュゴンのための環境自体に思いを致すことが必要なのである。保全活動自体は行政やNPOが別途続けるべきであるが、そこでも「なぜここに? 何時までもいるためにどんな助けをしたらいいか?」が必要であろう。そして、ジュゴンを調査したコンサルタントと自然然保護活動家との討論会を開き、「なぜ、どのように」について意見をぶつけ合うのは意味があろう。   
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