アセス情報 2009/08/19
                   
辺野古新基地建設への提訴について
                              島津康男

 普天間飛行場代替施設事業(ここでは「辺野古新基地建設事業」とよぶ)の環境影響評価(以下「アセス」とよぶ)については、本年4月に準備書が公表され、現在沖縄県の審査会において審査手続きが進行中である。本件については、計画場所が二転三転し、これに伴って方法書が何回も書き直され、また計画の不確定、不適切かつ強引な事前調査など、前代未聞の経過をたどってきた。この点については、私も「普天間飛行場代替施設のアセス準備書への意見」(環境技術 2009年6月号)で述べた通りである。

 ところで、今回「辺野古原告団」は違法確認(方法書・準備書の手続きやり直し)と、意見を述べる機会を奪われ違法な環境破壊がなされることに対する損害賠償請求とを二本の柱とする裁判を提起するという。
 開発事業に対するアセスの手続きがわが国ではじまってから50年近くになるが、これが規制や罰則を伴わない「手続き法」であることもあって、裁判に持ち込まれた前例は極めて少ない。その中で、私が参考人として関与したのは「愛知県の小牧・岩倉清掃工場(1984年)」と「宮崎県のリゾート施設シーガイア(1989年)」である。前者では調査の不備が訴因となって勝訴だったが、事業者が無知で不当に安いコンサルタントに発注したため、法廷でそのコンサルタントが「この費用でそこまで調査できるか」と開き直ったのが勝訴の原因になった。後者では防潮林が伐採されると奥の住宅団地の安全が阻害されるとの主張に対し、「海岸の森林がなくなっても、ホテルや巨大なレジャー施設が風を防ぐ」と結論された。このシーガイアはサミットの1会場となったが、まもなく破産した。

 また、アセス手続きの中で住民が攻勢をかけ、審査会が「不適切な事業」と結論し、環境省が同じく不適切と指摘して、その結果事業者が計画撤回に至った「名古屋市の藤前干潟埋め立て(1998年)」の事例がある。
 最近では、手続き法の性格が浸透したためか、住民参加が進んだためか、裁判の対象になる事業例はみられない。
 その意味で今回の辺野古新基地事業への提訴は珍しい。そして、提訴の理由が「アセス手続きにおける違法確認」と「損害賠償請求」との二本だてになっていることが、問題を不明確にしているのではないか。つまり、アセスそのものの内容を訴えているのか、アセスを提訴の手段にして損害賠償を求めているのかがはっきりしないからである。さらに、損害賠償を住民意見表明の機会消失と環境破壊との二本だてにしているため、アセスが対象なのか計画そのものが対象なのかははっきりしなくなっている。
 もしかしたら、損害賠償請求を入れないと訴訟にならないと考えているのかもしれないが、昔の公害告発裁判の時代と異なり、環境権自体が訴訟の対象となっている時代である。昨年、同じ「辺野古新基地」に対してアメリカで「ジュゴンの保護」を理由にした裁判が行われ勝訴したが、今回も環境保全だけを理由にしなかったのはなぜだろうか。
 さらに、アセスの違法確認を提訴理由にするなら、事業者だけでなく審査会、そして知事もが被告になりうる。審査会の機能不全があるならそれ自体が問題であり、さらに審査会の答申を知事がつまみ食いする例があるからである。原告団が裁判に訴えようとしているのも理解できるとしても、審査会・知事と事業者とを同時に訴えるのは現実的でない。第三者の介入の点で手続きの命である審査会が進行中であり、藤前干潟の例のようにまず審査会に攻勢をかけるのが順ではないか。

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