アセス情報 2011 6.12
                     
 諌早湾干拓事業の4度目のアセス
                              島津康男

開門のためのアセス 表記の事業のアセスについは、2008年7/14の「アセス情報」で紹介したところであるが、そこでは1979.1986.修正1992の3回にわたってアセスが行われ、1997年に7kmの潮受堤が完成、700haの干拓地、2600haの調整池が稼動した。一方、漁業者は早くから反対運動を行い、2004年に佐賀地裁に工事差し止めの仮処分を提訴して勝訴、2005年に福岡高裁はこの仮処分を取り消し、最高裁も上告を棄却した。そこで、漁民は「潮受け堤防の撤去と排水門の開門」に訴訟内容を変更して佐賀地裁に提訴、2008年には「環境調査のため、5年間常時開門する」よう事業者に命じた。この判決に対応する4度目のアセス準備書が今回6月10日に公表されたものである。排水門の開門という、いわば事業そのものを撤回することにつながるアセスは日本で初めてであるが、一方、すでに新設された干拓地では農業が始まっており、開門によって調整池が塩水化して干拓地の水路に侵入したり、調整池の水位が上昇して後背地からの自然排水が困難になることなど潮受堤を作る前とは違った影響を知る必要がある。つまり、漁業者のいう諌早湾への影響を調べるだけではすまない。

3つの代替案 準備書では、開門操作について大別して3つの代替案を想定している。すなわち、一挙に全開する場合、1年ごとに排水量を増やし5年で全開する場合、排水量を全開の1/10程度に止める場合、である。恐らく第3案はゼロ案(何もしない場合)に近いであろう。面白いのは、代替案ごとの対策経費の相対評価が行われていることである。開門によって排水門周辺の堤防に急激に水圧がかかるのでその事前対策のために、第1案、第2案ともに1077億円が必要といっている。なお、これまでに建設に要した事業経費は2370億円であり、やめるにも結構高くつくことがわかる。
なお、準備書の書式については相変わらずの旧式スタイルで通しページでないので、詳細のページ数はわからない。九州農政局のホームぺージに概要・要約書・全文が載っているが、準備書全文のファイル量は100Mb、図が多いのでページ数は案外多く2000ページ位かも知れない。

シミュレーション・モデルの公開 実は諌早湾干拓事業のアセスは、以前40年間の日本のアセスでのワースト3よりさらによくない事例とした私があげたものである。今回は、底生生物・プランクトンによる栄養塩の循環を考慮した水質予測モデルが目玉らしく、そのシミュレーション・モデルを、事業者の九州農政局がCD-ROMで希望者に郵便代140円で配布するという念の入れ方だが、現在ではあまり使われていないFORTRAN COMPILERをコンピュータに入れないと動かないのは残念である。それにしても、果たして今回の結果が漁業者に理解してもらえるだろうか。干拓地での農業を重視する長崎県と漁業を重視する佐賀・熊本県とは完全に利害が対立しており、今回のアセスが協議の道具になりうるかは疑わしい。

始華干拓との比較 韓国の始華干拓では、完成後調整池の水質が急激に悪化し、排水門の常時開放に至った。そして、今では潮汐発電所になっている。干満差10mという特徴を生かしたものであるが、諌早湾の干満差は日本で最大といえ6mに過ぎない。それでも、理屈上は始華の半分の発電量が期待されるが、始華と違って内部の農地化をしてしまったので、真似をするわけにはいかない。

震災とアセス 東日本大震災は、地球科学専門家にも環境アセスメント専門家にも大きな衝撃を与えている。そのどちらにも籍を置く者として、私個人もどうしていいかわからない日々である。まして、原発のアセスにも関係していたことがあるのだから、悔悟の思いは3重である。最近熱をあげていた日韓トンネルも、今の日本にとっては夢の又夢である。3月には「生身のアセス助っ人」育成のプログラムを発表する予定だったが、3月11日を期にそれは泡と消えた。これまで住んでいた所に戻るか、高所に移るかの決断の戦略アセスを「アセス助っ人」する思いはあるのだが、その内容が固まらない。もう10歳若かったら行動から始めたのにと残念である。長生きしたくないものと感じている。


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