中部国際空港建設事業及び空港島地域開発用地埋立造成事業に関する
環境影響評価準備書

中部国際空港株式会社(空港部)、愛知県企業庁(関連施設部)
平成10年12月25日

 空港用の470ha及び関連する流通・商業施設などの110haを合わせた空港島 の建設・運用に係るアセスメントの準備書である。航空機の離着陸回数、手段別アクセ ス発生交通量は予測の前提となっているが、タ−ミナルビル及び整備施設での具体的な 運用状況やアクセス連絡橋の建設・運用は考慮していない。
 環境影響評価法を先取りして方法書(平成10年6月10日公表)の手続きを踏んだ 上での準備書であり、新法の精神をどこまで取り入れているかの点で試金石としての意 義が大きい。従って、このことを重点に準備書の内容を評価する。

 分量として、目次と用語解説の部分を除いた923ペ−ジのうち、事業目的及び地域 の概況が10%、方法書に対する住民意見と事業者の見解が3%、現況調査が40%、 予測・評価が43%、環境保全対策・環境監視・総合評価が4%の割合になっている。 予測・評価以下が全体の50%以下なのは、予測・評価に重点をおくべき準備書本来の 意義からいって好ましくない。さらに、通しペ−ジになっておらず各章ごとのペ−ジ建 てになっているのは、「わかりやすい準備書」という点からは好ましくない。方法書に 対する住民意見の概要と事業者の見解とが対照表の形になっているが、「複数年かけて 調査を行っています」「環境影響評価法に従って実施しています」など、これまでの評 価書にあった準備書に対する意見への対応と全く同じ体裁で、木で鼻を括ったような表 現が目立ち、もともとの目的であるはずの、「方法書段階でのアセス計画のどこを変更 したか」がわかるような表現になっていないのは残念である。

 環境影響評価法でもっとも変わったのは、「環境基準をクリアしているか」よりも「 環境保全措置にどれだけの努力をしたか」に重点をおく所にある。本準備書ではその線 に沿って、「環境影響の回避・低減に関する評価」「環境保全の基準又は目標との整合 性」の順に記載しているが、例えば「大気質」では「鉄道アクセス基盤施設の整備によ り、空港へ出入りする自動車を減らすことにらよる排出量が削減される」とし、「水生 生物」では「空港島と対岸部の海域幅の確保、空港島護岸の曲線化によって流れが円滑 になり、栄養塩を含む湾奥系水の供給が確保されること、流れによる初期発生段階の生 物の輸送機能が確保されること、により海域生物に及ぼす影響の軽減が図られる」とす るなど、定性的な記載に止まっており、どの程度の軽減が期待されるかの具体的な記載 がない。技術指針では、「複数の保全措置を比較して、最善の措置であることを示す」 となっており、この点からもこのように簡単な記載に止まっているのは十分といえない 。その一方で、随所に「影響は小さい、変化は小さい」の表現が目立ち、これまでの「 環境基準クリア型」からの脱却が目立たないのは残念である。どうしても比較の対象に なるのは、現行のアセス手続きによる「関西空港2期事業に係る環境影響評価準備書」 (平成10年4月)であるが、いろいろと記載事項を新法に合わせているものの、内容 はこれとよく似ていることが、かえって気になる所である。

 又、新法によって新しく付け加わった環境項目である「生態系」「人と自然との触れ 合い活動の場」「廃棄物」をどう扱っているかは、今後の準備書の先駆けとして興味の ある所であるが、ペ−ジ数が少ないこともあって残念ながらいかにも上滑りのままであ る。特に、本事業では10km離れた所にカワウのコロニ−があって9000羽が生息 し、毎日空港島予定地の周辺に多数が飛来する。そこで、準備書では典型性の観点から アマモ、バカガイを代表とする生態系を、サッパ(プランクトン食魚)、イシガレイ、 スズキ、カワウを上位性生物とする生態系をとりあげているが、前記の海域幅の確保、 護岸の曲線化と自然石を利用した傾斜堤護岸や岩礁性藻場の形成(これは関西空港と同 じ)によって、多様な生物が豊富に生息するので、影響の低減がはかられると、僅か数 行書いてあるだけでり、定量的な効果には触れていない。これによってカワウが集まる ことをプラスとみている一方で、鳥類と航空機との衝突を避けるため、バトロ−ルによ って追い払うとしており、対症療法の感を免れない。

 中部空港調査会では、6年にわたって各種の調査を行っており、それが準備書の前提 になっていて、それだからこそ方法書の公表以来6ケ月で準備書が出てきたのであるが 、歴史的・文化的な面を含む広域の風景、漁業とカワウとの関係など広範な調査をおこ なっているにも係わらず、新法の技術指針が「人と自然との触れ合い」を狭く解釈した こともあって、本準備書では切り捨てられている。
 なお、さりげなく書いてあるが、第8章の「建設工事の影響予測・評価」で予測の前 提として「埋立材は山土と浚渫土を主に使用する」としているのは大きな変更である。 これまでは周辺の陸上2ケ所を山土の土取り場とし、県の企業庁による環境影響評価を 同時に実施してきたのであるが、そのうち1ケ所についてはオオタカの巣がみつかり、 3年間の調査が必要として開港が間に合わなくなって断念し、もう1ケ所も用地買収が 進まず、その上中部空港株式会社が「安い所から買う」として企業庁からの購入にこだ わらないとして、準備書では「浚渫土」をも候補にあげたものである。浚渫土を取り込 むとなるとこれまで名古屋港で浚渫土の受け皿予定地となっているボ−トアイランドへ の搬入をこちらに向ける可能性も出てきたことになる。そうなると、同時に進行してい る名古屋港内の藤前干潟を廃棄物処分場とする計画にも玉突き的に影響を与える。すな わち、自然保護の観点から環境庁が埋め立てにクレ−ムをつけ、処分場の代替地を探さ ねばならない雲行きなのであるが、ここで浚渫土を空港に回し、ポ−トアイランドへ廃 棄物を搬入する可能性もでてきたことになる。


アセスメント情報目次に戻る。
トップページに戻る。