韓国の始華・サ万金干拓と諫早                                                                               
   島津康男

 私は仁川の沖に建設中の韓国首都圏新空港の環境アセスメントのお手伝いをし ており、これは二つの島の間を干拓する4700haの人工島である。
今回4月7日から10日まで別の二つの干拓事業の現場を見てきた。ソウルの南西40km、地下鉄で1時間20分の安山市で大規模な「始華干拓事業」が行われている。ここは仁川市の南隣であるが、湾を締め切って長さ12.6kmの堰堤で囲い、17、300ha(うち淡水湖は6、100ha)の干拓地を作っている。3、550haの諫早湾干拓と比べるとその規模はずっと大きく、総干拓面積は霞ケ浦より広い。1987年に着工し1994年1月に締め切りを完了し除塩をはじめたが、それまで沿岸でのBODが3mg/lであったのが、締め切り後に淡水湖で24mg/lと高くなり、大問題になっている。干満差が8.5mもあるため堰堤の高さは12mの巨大なもので、汚水を薄めるため、やむなく満潮時にゲ−トを開いて海水を入れているが、堰堤の長さに比べると2個のゲートでは全域に広がることにならず、平均の水質はよくならない。水質のことを考えずに締め切ったことを反省し、4年経った1998年11月には淡水化、利水、淡水湖での養魚の全計画を断念した。 
 このことは、この4月で締め切り2年を迎えた諫早湾の行く手を暗示するが、諫早とは規模だけでなく状況の違う所がある。海鮮料理で有名だった漁業がダメになったのはモチロンとして、水質がよくならない主な理由は、1987年の着工時に人口4万だった安山市が10年間で55万のソウルのベッドタウンになってしまい、しかも下水の処理率は36%の上、処理水を含めて全部海に捨てているからであり、締め切りをしようとしまいと、汚水を海に垂れ流していたことに変わりなく、淡水湖は汚水溜めになったのである。下水をパイプで堰堤の外の沖合いに放出しようとしても、汚水源自体が分散しているのですぐには不可能である。
 安山市の上水はソウルと同じ水源であり、ソウルからさらに水を引いて淡水湖の水質を改善しようかといっているが、根本には安山市の下水道整備が先ではなかろうか。ソウル及び周辺の衛星都市は一つの水源に依存しており、安山市はいわば自前の水源を持たず、垂れ流しだけしているのである。 
 大干拓はこれに止まらない。ソウルから南に200km,中部の全羅北道金堤市でも二つの島をつなぐ長さ33kmの堰堤で湾を締め切る「サ万金干拓事業」が1991年から進行中であり、既に堰堤の半分が出来ている。予定している干拓地面積は40、100ha(うち淡水湖11、800ha)に達する。琵琶湖が67、000haであることからも、その大きさがわかる。黄海沿岸は北へ行く程干満差が大きいが、中部の金堤でも6.5mある。始華干拓に懲りて、ここでは水質がはじめから問題になっており、集落排水処理を進めるとか、すぐ北の錦江から導水するとか、淡水湖に葦を育てるとかしてBODを3mg/lに抑えるとしている。 
 この錦江は昔の名前を白村江とよび、奈良時代に百済を助けに行った日本水軍が新羅に負けた所である。ちなみに、金堤自身が、日本統治時代に干拓を行った所で、韓国有数の農業地区になり金堤の名はそれに由来する。とにかく韓国は干拓が好きで、IMF管理経済下でも盛んである。ちなみに、始華干拓の事業費は5、200億ウオン(520億円)金堤干拓は1兆7、500億ウオン(1、750億円)である。日本の場合に比べて、思いの他安い。干拓事業の第一目的は「国土創成」であり、農業用地や工業用地への利用は二の次の感じがする。 韓国の干拓にはもう一つ根本の問題がある。韓国では、黄海側の農業地域は農水省、日本海側の工業地域は通産省と、河川管理から土地利用計画までが各省に任されている。従って、南端の木浦から北端の仁川までの黄海側は農水省の地盤である。
 韓国の環境アセスメントの第1号となった1981年の木浦干拓事業以来、私は韓国とお付き合いしているが、農業開発の考えのままソウル首都圏で始華干拓を実施してしまい、都市問題とぶつかったのが根本問題ではなかろうか。仁川の空港島も農水省が作ったが、離れ島の埋め立てだったため、都市問題との直接対決がなかっただけなのである。なお、木浦の干拓には、当時計画撤回になった諫早干拓を計画した日本の農業土木技術者が指導にあたっていたが、その後韓国の農水省は次々と干拓事業を実施し、今では世界一の技術を誇っている。諫早、藤前、三番瀬と日本では干潟の消滅が問題になっているが、韓国では桁外れの干拓が進行していることを覚えておいていただきたい。 なお、これらの干拓事業の設計を担当している農漁村振興公社はISO14001の認証を受けていることが名刺に刷ってあるのが印象的であった。【この項終わり】


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