2014年 環境技術学会 年次大会 講演会 
       東アジアの越境大気汚染30年間の顛末と今後
            
       講師 藤田 慎一氏
            電力中央研究所名誉研究アドバイザー・東京理科大学客員教授
 (講演後、市川陽一氏(龍谷大)を司会とし、平木隆年氏(兵庫県環境研)との対談を予定しています。
  またフロアとの交流も楽しみたいと考えております。)

基調講演(概要)
越境大気汚染という概念は,昨日今日に生まれたものではない。
1970年代から1980年代にかけて,欧米で大きな国際問題になった酸性雨がその原形であり,
前史を含めると優に半世紀におよぶ経緯がある。
原因物質は二酸化硫黄と窒素酸化物の二つであり,
長距離越境大気汚染条約の締結をめぐって,ながい国際論争がくり広げられた。
日本の酸性雨は1970年代のなか頃,関東の内陸地域で湿性大気汚染として出発し,
当初は地域規模の環境問題と捉えられていた。
1980年代のおわりになると,
生産活動の進展が著しい東アジアの酸性雨に社会の関心があつまるようになった。
そして2000年代になると,二酸化硫黄や窒素酸化物にとどまらず,オゾン,エアロゾル,
黄砂,農薬,重金属,水銀,火山ガス,火災煙,微生物,放射性物質・・・と,
およそアジアに排出源をもつあらゆる物質が,
広域的な輸送現象と複雑に関係していることが明らかになってきた。
酸性の降水に拘泥しなければならない必然性はなくなったのである。
だが各国の政府の間には,越境大気汚染の見方について温度差が存在した。
2010年に開催された東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の政府間会合では,
EANETの強化のための文書が採択された。
研究者の多くは,整備が遅れている大気質のモニタリングと,
輸送現象のモデリング研究の二つがこの文書に盛り込まれることを期待した。
だが一部の国の反対によって具体化しなかった。
もちろん各国には相応の国内事情があるだろう。
欧米でも排出量の削減協約にたどりつくには,10年以上の年月を要した。
この間に越境大気汚染の物理と化学はたいへん進歩したが,
最終的な判断は政治決着によるところが大きかった。
アジアについていえば,まず研究者が科学的な認識を共通のものにすること。
そして為政者にも同様の認識が醸成されることが,重要なのではあるまいか。
こうした意味で2013年1月のPM2.5 騒動をきっかけに,
中国の環境当局の姿勢に変化がみえ始めたことは歓迎すべきである。
事態はそれほど深刻なのである。
かの国は傲岸だが無知ではない。時間が解決する問題であると信じたい。