水道の来し方行く末
  Mitsumi Kaneko
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 081205 水の安全保障1
 自由民主党特命委員会「水の安全保障研究会」が最終報告書をまとめた。教科書的なことが列挙してあるので、一般市民や学生などが読めば、現在の水事情がわかって参考になる。政治主導で行うべき道筋が書いてあることは評価できる。
 「水の安全保障」という言葉はいかにも政治家好みの言葉である。保障とは「侵されたり損なわれたりしないように守ること」である。それほど大げさなことがわが国にあるのだろうか。もし水量と水質が水利用と環境保全に支障がなければ、特に「安全保障」と言うほどの問題はないはずである。その言葉を使うことはそれだけの危機感があるということであろう。
 水道の立場からみれば、人口の減少と節水の徹底から、水量的な問題はある特定な渇水常習の特定地域を除いて問題になることはない。水質も事故的な異常が起きる場合もあるが、絶対安全とは言わないが不安になるほどの水質問題はない。
  水処理についても、凝集、沈殿、濾過を主体とする処理システムから活性炭処理、オゾン処理、膜処理などの導入が広く普及するとともにそれらの技術が格段と進歩してきた。
 このようにみればわが国の水道は安泰で安全保障と騒ぐほどのこともないと一見思える。しかし、水道は水の在り方全般の一形態であり、水行政の立場より検討すべきことは多い。その観点より今回の報告書を見るとよく整理されているとみて良いが、それについて異見を少し差し挟む。
 まず、このような意見は自民党だけでなく、全党的な意見としてまとめられないのだろうか。政治の世界では、いつも言っているように揚げ足取りの政局絡みの動きから、一つの党の考えは他党によって捻じ曲げられ、いつの間にか優れた道筋が矮小されてしまう可能性がある。水のようなわれわれ生命に直接関係がある事項に関しては、最初から全党的合意に結びつけられるようにすることが望ましい。
 縦割り行政の問題をどうするかについては、「政治主導による行政分野の枠を超えた制度の構築」と記載されているだけである。水道は厚生労働省、下水道は国土交通省、水資源開発と表流水の治水も国土交通省だが扱う部局は異なる。発電用水と工業用水は経済産業省、農業用水は農林水産省、公共用水の水質監視と評価は環境省であるが水質監視は国土交通省と自治体も行っている。
 環境基準は主として環境省、排水監視は自治体が行っている。公害防止管理技術者は経済産業省である。地下水については環境基準はできたが、水扱いの面では私水扱いである。
 大雑把に言えば、水量的には国土交通省と農林水産省、衛生的には厚生労働省、環境基準は環境省、工業が絡む場合は経済産業省である。水は降った雨が河川から海に行くまで人間サイドの都合に関係なくいろいろなコースを辿る。水制度の一本化が、少なくとも水に携わっている人達の間では、望まれている。
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081125 
先を見詰めた経営
 低年齢層の人達が水道水に馴染めば、大人になってからの水道水への密着度も高まる。文部科学省は水道サイドの都合で施設の改築費を出すつもりはないであろう。しかし、良質の水を供給するということは健康にもいいはずである。
 さらに、水道水離れが減少して、ボトル水を飲用する傾向が減少すれば、それだけ地球環境に貢献することになる。欧米の一部ではすでに始まっているが、ボトル水を飲むことは、ペットボトルの生産、廃ボトルの処理などに要する資源を浪費することであり、さらに水を入れた商品を運搬するためのガソリン消費が地下資源の浪費と二酸化炭素の排出をもたらす。
 わが国は水道施設が全国的にほぼ行き渡っている。出来上がっている施設は有効に利用したいものである。「ボトル水に水道水質基準を」では、ボトル水と水道水の競合的飲用を提唱したが、あくまで個人的嗜好はあなたの勝手だという前提である。
 地球環境問題まで考えれば、少しでも資源浪費が少なくて二酸化炭素の発生が少ないシステムが望ましい。水道水に馴染んだ子供が大きくなっても水道水を飲む可能性が高いとすれば、子供時代に良質の水道水を飲んでもらうことが有意義であるはずである。
 このような大局的観点に立って、文部科学省も学校の水の直結給水を進めることを期待したい。
 高層住宅の上層まで水を上げるには圧力を高くしなくてはならない。水圧を高めれば、弱い配管が破裂しやすくなる。ときどき配管破裂で道路に水が溢れ、住宅が水浸しになる事故が発生している。
 直結給水とは関係なく、水道施設が古くなった管(経年管)の敷設替えをする必要があるところが全国的にあり、その費用の捻出に悩まされているところが多い。それに直結給水の問題が加わる。
 これからの水道に施設更新・補強の問題が大きくのしかかっている。しかしやらなければならない。われわれは、わかっていることでもそれが先の出来事については、どうしても先送りする。現在のわが国の借金は、そのような「何とかなるさ」の精神から溜ったものである。
 作ったものはいずれ壊れるから、早めに、ものによっては作った時点で建替えのことを考えておく必要がある。明石大橋を見学した時、説明者に敷設替えのことを質問したら、そんな先のことは考えたことはないとのこと。水道は百年後には施設の見直しが必要である。人の寿命より少し長い。先のことは「知ったことではない」になりやすい。
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081105 学校への直結給水
 厚生労働省をはじめ水道事業体は水道水をがぶがぶ飲んでほしいと一生懸命である。全国水道企業団協議会が今年7月に文部科学省に、学校の直結給水化の推進を要望した。それに対して「今のままで健康上の問題はない」とつれない返事が返されたと言う。
 学校関係に直接働きかけたことはいいことである。「水道水を飲むか」「自分が利用する水道水をどこから取っているか知っているか」その他、水道との親和性についてのアンケート調査をしたことがあった。その結果、小学生のころ浄水場などの水道施設を見学したことがあるという経験と水道への親しみや飲料行動に相当高い相関があったという経験があった。
 義務教育の段階でいろいろの施設を見学させるというのはいいことである。ゆとり教育が見直されるようになったが、ゆとりの時間を使って見学をさせることをお勧めする。大阪市ではごみ処理場をすべての小学生に見学させる計画と伺ったことがある。良いことである。
 水道システムをよく知らない人のために横道にそれる。ビルで用いられる水は水道水が一旦ビルの下にある受水槽に貯えられる。この段階で水道当局とは縁が切れる。受水槽より先はビルの管理になる。受水槽の水はビルの上にある高置水槽にポンプで揚げられる。高置水槽から自然落下するする水が各戸で利用されることになる。何百メートルという超高層ビルでは、高置水槽が段階的になり、高く上げた水をさらにポンプアップして上に水を揚げることになる。
 受水槽と高置水槽に水が貯えられることは水の滞留時間があることであり、管理が悪いとその間に水質が劣化し、温度が変化する。人口が都市に集中すればするほど、高層の集合住宅に住む人口が多くなる。その結果、配水管で運ばれた水よりも不味くなった水を飲む人口が多くなり、水道水離れの人口が増加するのを後押しする。
 学校への給水を直結給水しようとするのは、上記のように生徒にできるだけ美味しい水を飲んでもらうためのもので、また滞留時間がなくなるだけ味以外の水質が劣化する可能性が低くなるからである。すなわち、子供達により良質の水を飲んでもらおうとするものである。
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081007 ボトル水に水道水質基準の適用を

 水道水を飲まなくなってしまったら困るのであろうか。水量の二百分の一程度の水が売れなくても、水道当局が財政的に非常に困ることはない。飲み水を配っているというプライドの問題と思っていいかもしれない。
 水道水を風呂、炊事、水洗用水などの雑用水と割り切り、ボトル水に飲用の水を任せるといった態度はできないだろうか。ボトル水を目の敵にしないで、今まで通りの事業を続けるのである。そうすれば、消費者の蛇口離れを悲観することなく、肩の荷が下りるのではないか思われるのだが。
 プライドを捨てるのではなく、今まで通り,水道水は飲用を目的とした水質基準の維持するのである。嗜好あるいは無知で高いボトル水を買うのは消費者の勝手と割り切るのである。その場合でも水道水とボトル水の価格の比率は広報しておく必要がある。
 上記の考えはボトル水と水道水を全く同等に扱うことであるが、それは、前提として、ボトル水の水質も衛生的に安全であることを、基準の上で明記する必要があるということである。消費者の多くはボトル水のほうが水道水より安全と思っている人が多い。また、水質基準も両者で同一と思っている人も多い。両者を行政上扱う部局は異なるが、消費者はそんなことは知らない。
 ボトル水は「清涼飲料水」の基準が適用されている。そして、安全な場所から採取しているという前提で、水道水のような多くの水質項目は測定しなくてもよいことになっている。しかし、現在の人間活動の広がりと規制の甘さから、地下水や湧水がそのまま飲める水質であるとは100%言い切れない。
 消費者の観点に立てば、生命維持のために飲む水は水道水であろうがボトル水であろうが同じである。飲んで安全であると保証しなければならない。ゆえに、その保証であるべき水質基準は同じでなければならない。そのためには、ボトル水の水質基準を現行のように清涼飲料水の基準を適用するのでなくて、水道水の基準を適用することである。
 同じ保証の上に立てば、美味しいとか不味いとか、健康にいいとか悪いとか、セレブの証とか言って、飲む水を選ぶのは全く消費者の自由である。水道事業体が自信のある水を供給しても、飲み水に使われないといってそんなに悔しがることもない。高度処理をしなくても基準適合の水が得られれば、高度処理を止めて、水道料金を下げることも視野に入れてもいい。
 とは言っても、小生は飲み水も水道水で十分と思っている。飲み水が得られないときに買うことはあっても、日常生活でボトル水を買ったことはない。味はボトル水と変わらないし、高い水を買うほど裕福ではない。
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081001 水道水離れ
 
水道離れした消費者を蛇口に呼び戻すには、なぜ蛇口から離れたかを考える必要がある。その原因は一つではない。また都市と農村とでは異なる。
 人口が集中し、水道がなければ水が使えない場合は、否応なしに蛇口に頼るようになった。蛇口から水が出るから都会で生活ができる。水道水に対する競争相手がいない場合は、蛇口の水だけが利用された。その水が美味しくなくてもそれを利用せざるを得ない状態のところにボトル水が参画してきた。
 一方農村など人口の多くないところでは、見た目では綺麗で、美味しい水が容易に得られるところが多い。そのようなところでは水道が必ずしも必要でないかもしれない。しかし見た目には綺麗でも、病原体に汚染される場合が多く、衛生的に安全な水を供給する必要性が認識されるようになり、塩素消毒をした水道水を供給する地域が多くなった。
 そのようなところでは、目の前に一見上質の水が存在する。そのため通常カルキ臭と呼ばれる塩素臭が嫌われ、塩素を添加するのをやめ、蛇口の水ではあるが塩素が添加されていない水を供給するようなところがあり、その結果水系感染症が発生した。このようなケースでは、水道当局のミス運転と消費者の無理解が原因ではあるが、水道水は不味くて危険という考えが根付いてしまう可能性がある。
 ガラス瓶に詰めた水もあるが、ボトル水の普及にはペットボトルの出現が大きく貢献した。牛乳もガラス詰のものからパック詰めが主流になってきた。詰める容器に変革が起きたころ、水源の富栄養化が進行し水の異臭味の問題が生じてきた。水道側は臭い水は健康に影響しない、単なる嗜好の問題という態度をとっていた。その間に蛇口に接続する浄水器が売り上げを伸ばし、それに追いつくようにペットボトル水が普及してきた。
 一方で、欧米先進国はボトル水の水を飲み、水道水は飲まないという誤った風聞が一般に受け取られ、それをボトル水業界が後押しをした。
 日本の経済力が高まったことも背景にあり、水道水の料金の100倍もするボトル水を買う経済的負担が苦にならない。スーパーマーケットやコンビニエンスストアーがあちこちに出店し、どこでも容易に入手できる。
このような背景から、飲用としての水道水離れが進み、気付いた時には飲み水としての地位に関して、ペットボトル水に後れを取るようになってしまった。15人のゼミ生のうち、誰も水道水を飲まないという時もあった。中には「水道水は飲むためにあるのですか」と質問する学生もでる始末であった。
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080929 マイクロバブルの利用

 9月3日に淡路島にある河内ダム、ダムといっても面積2haの貯水池であるが、を見学した。マイクロバブルを用いた水質浄化装置とその効果を見るためである。当池にはアオコとそれに伴う臭気が発生したので、その対策としてばっ気装置を設置した。
 その装置を中心に半径約10m/水深0.5〜10m領域ではDO値および水温は安定している。その領域を超えるとばっ気装置の効果が弱くなり、岸辺付近ではアオコと臭気の発生があるという。その対策として「超微細気泡発生装置」いわゆるマイクロバブル発生装置が導入された。
 この装置は、水中ポンプに超微細気泡発生用のノズルを取り付けたものである。化学実験室あるアスピレーターのようなものであり、水の流れに吸い込まれる空気が微細なノズルを通して空気が吸い込まれ、吐出水中に微細なバブル(直径0.05mm以下)が含まれ池内に放出される。だから、装置的に簡単であり、維持管理も容易である。
 普通の気泡は水中をふわふわと上昇して、表面ではじけるが、直径0.05mm以下のマイクロバブルは水中で縮小し、ついには完全溶解し消滅するという。表面張力は表面を小さくするように働く。その結果、気泡が小さいほど内部の圧力は大きくなる。ヘンリーの法則に従って気体は圧力に比例して水中に溶解する。そうなればさらに気泡が小さくなり、かつ圧力が大きくなるという自己加圧効果がみられる。
 このようなマイクロバブルには次のような特徴がある。@気体溶解効率が高い。水との接触時間が長く、単位容積あたりの接触面積が大きいので、気体がよく溶ける。Aマイクロバブルはマイナスに帯電しているので、バブル同士が反発し、大きく成長しない。だから長時間滞留できる。1〜2時間ほどバブルとして留まる。Bマイクロバブルの自己加圧収縮するときに起こる圧壊現象により、極めて反応性の高いフリーラジカルを生成する。ラジカルの反応により有機系化学物質の分解が促される。
 このように酸素がよく溶け、反応性の高いバブルが形成されて、それらが長時間滞留すれば、水質改善効果が期待できる。通常の活性汚泥処理でうまく処理できないCOD2500~2800mg/Lの排水を、バイクロバブル処理槽を直列に配置した処理系で10mg/L以下に処理できるという。
 上水道関係でもマイクロバブル処理が期待できそうである。今回見学した河内ダムでは、マイクロバブルによって池内の生物相を藍藻類から珪藻類に変化させ、その結果、異臭味問題を解消できたという。それまでは、オゾン・活性炭処理という異臭味対策としてはオーソドックスな方法を取り入れていたが、維持管理と経費で問題があったのをマイクロバブル法を導入して解決したという。
 今回は肉眼で見ただけであったが、確かに池の優占種は珪藻類であることがわかった。こらからはもっと広く採用されることが期待できる。たとえば、フリーラジカル反応によって消毒効果を高めたり、また、オゾンをマイクロバブル化し、オゾン自体の非常に高い酸化力をマイクロバブル化によって殺菌力を一層高めることが考えられる。直径がナノ単位の大きさのバブルをナノバブルと言う。ボトル水などでナノバブル処理を売り物している製品が売られているが、水源貯水池を含めて上水道でもこのような微細バブルを利用したシステムがさらに検討されることを期待したい
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080925 テロ対策4
 いつ来るかわからないことに対して緊張感を持続するのは難しいのは、地震災害の場合と同じで、いつの間にかマンネリを通り越して、そのこと自体を忘れてしまう。緊張感が薄れるのは仕方ないとしても、忘れないように心掛け、もし事件が起きた場合はどうするかという事後対策だけは即刻十分に取れるようにして置かなければならない。
 水道事業体は病原体そのものに対する知識はほとんど持っていない。一方で病原体に関するプロがいる医療機関や衛生研究所・保健所などの衛生行政機関は、水道システムについてはあまり知識を持っていない。緊急時は両者が密接な情報交換を素早く行う必要がある。
 水道事業体も各事業体で考えるのでなくて、国全体で考えれば、微生物に関する知識の豊富な技術者がいる。水道界全体から選抜して緊急時に対応するチームを作っておくと言う方法も考えられる。
 後書きになるが、対策を考える上で微生物兵器の特徴を知っておくことが参考になる。まず、生物兵器として用いられるに必要な要件は、@大量生産が簡単にできるもの、A殺傷力が強いこと、B潜伏期間が短いこと、C検出されにくいもの、D自然減衰の遅いもの、E消毒抵抗性が強いこと、などである。
 このような特徴の上に作られる生物兵器の特徴は、@安価に、多量に生産が可能、A秘密裡に生産・保持し、あるいは平和的利用を隠れ蓑として生産・使用、B持ち運びが簡単,C二次,三次感染がある、D遺伝子操作により、毒性が強化される可能性がある、E病原体の種類によっては、自然発生か人為的アウトブレークか短期間に判別できない可能性がある、F心理的パニックによって実害以上の混乱を引き起こす可能性がある。
 国際的条約があるといっても、あらゆる決まりに囚われないのがテロである。病原体の種類や攻撃の最悪条件を想定し、水道施設と結び付けてテロ対策を心がけておく必要がこれからはあるのではないかと思う。
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080910 テロ対策3
 
テロで水道へ投入するものは化学物質がいいか生物がいいか。オウム真理教はボツリヌス菌の培養に失敗して、サリンの合成に成功し、それを使用した。国家的なテロなら化学工場で毒物を製造しそれを用いる。オウム真理教も富士山麓のサティンと呼ばれる工場でサリンを製造した。化学物質は製造が規模的に大きくなりやすい。
 一方微生物は培養すればいい。培養すれば勝手に微生物は増殖する。もちろん培養技術を取得しておく必要がある。さらに、微生物は人から人へと拡散、伝播する。少量でも大きな効果をもたらす可能性がある。要するに、悪さの効果をもたらす量の微生物量を得るのはそれほど難しくない。
また高い死亡率をもたらす微生物、すなわちダメージを与える力が強いものを選択できる。また安価であるという特徴もある。輸送や散布も容易である。100kgの炭疽菌を散布すれば13万から300万人の死者が出ると推定されている。
微生物は伝播する。「うつる」ということに人は異常に恐怖感を持つ。そのため、パニックを起こし、社会を壊滅させることもできる。それを防ぐには公衆衛生上の特別な準備が必要となる。
 生物兵器は残酷と思われるのか、国際的に禁止されている。1925年のジュネーブ議定書の生物化学的兵器利用禁止条約、1972年の生物毒素兵器条約(145ヶ国加盟する協定)があるが、米、英、旧ソ連、イラクそれに日本が製造し、一部の国は使用した。
 生物兵器の歴史は古く、紀元前4世紀に、古代マケドニアのアレキサンダー大王の率いる軍隊が疫病死体を石弓で敵に投じたと言われている。死体を井戸水に放り込んだと言うことはよくあったらしい。近年には、イスラエル人が第二次大戦の仕返しに、赤痢菌などの病原体をドイツの都市の上水道に投げ込む計画を立て、実行に移したが途中で見つかり、スーパーの食品にばら撒いた事があった。
 このような過去の実績からも水道がテロの標的に曝される可能性は十分ある。それらに対する予防策はこのコラムの前々回に述べた。平和時においても水道は絶えず緊張感をもって管理しなければならない。ラジコンなどを使って空中からの散布の可能性もある。嫌な時代になったものである。戦争をしているわけでもないのに。
 絶えず緊張感を持つのは、われわれが苦手にするところである。昨日まで何もなければ明日も何もないと思ってしまうのが普通である。だから、異常気象で大雨が降ると右往左往することになら。ダムの評価も今までと同じ気象を前提にして論議されている。しかし前例が役に立たない状況になってきた。テロでも同様である。いつ来るかわからないテロに対して緊張をもって監視するのが、テロ対策でいちばん難しいことである。
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 080904 
テロ対策2
 水道の公園的雰囲気を持つ施設は、市民と行政とを結びつける役割を持っているが、テロという目に見えない敵が横行する時代には、施設と市民との距離を少し離さざるを得ない。発展途上国などで浄水施設が軍事的施設として扱われていることを経験された方も多いと思う。
 小生も台北の水源地を訪れたとき、湖といっていいほどの広い水源地にそのまま通じる通路は施錠されていた。湖岸全部を人が近寄らないようにするのは大変であるけれど、通路は無許可では入れないようにしてあった。案内されて湖岸に行ったが、水はきれいであった。
 シンガポールの水源地では、写真を撮った人が逮捕されたことがあると聞いた。エチオピアでは浄水場の入り口に銃を持っている番人がいた。このように施設の警備については、発展途上国のほうにわれわれが近づかざるを得ない。
 浄水場の塀の高さも高くする必要がある。刑務所の高さが参考になる。刑務所を出られない高さは、人が入られない高さでもある筈だ。刑務所は入所者の刑の重さにもよるが、一般には約4m程だそうである。
 現在はいろいろなところにモニターカメラが設置されている。水道施設にも人が異物混入の可能なところにはモニター監視が必要である。河川から取水する場合に何処をモニターするかは十分検討する必要がある。取水口そのものは当然であるが、毒物を上流に投入する場合、どの上流まで監視する必要があるか、換言すれば、毒物混入の効果ある地点は上流のどの地点までかを知る必要がある。それには汚染物質の濃度・量と河川水の水量が関係する。
 小生はいつも言っていることであるが、供給する水の全量を対象として濃度を考えて投入量を計算するのは間違っている。そうすると膨大な量の毒物が必要である。だから水道に対するテロはないという人がいる。
 そうではない。テロは少人数が被害を蒙れば成功である。投入したこと自体で市民がパニックになればいいのである。水道の水は一般に「押し出し流れ」のように流れる。少量の毒物でも高濃度の部分が形成されて、そのまま流れていく。その濃い部分の水を摂取した人が被害を受ける。その部分が大きいかどうかで被害の程度が影響される。2Lのポリビン1個に詰めた毒物で目的が達成できる場合だってある。
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080821 テロ対策 1
 これからの水道が避けて通れないものの一つはテロ対策である。2001年の9・11事件直後、わが国の水道でもテロとは無関係とは言えない認識とともに、横浜市水道局などが素早くテロ対策を検討した。厚生労働省の健康危機管理基本指針のもとに飲料水健康危機管理実施要領が策定され、テロ対策マニュアル策定指針が出されている。
 水道におけるテロ対策に関して、小生は「微生物テロと狂牛病と水道との関係−水道システムにテロ対策を−」と題して「環境技術Vol.30,No.11(2001)pp31-34」に私見を述べている。
 テロというのはいつ起きるかわからない。ある目的を達成するために行われる行為であるが、仕掛ける側の標的が、仕掛けられるほうにわからないことが多い。だからテロであり、守る側は予想されるものに対して絶えず注意を払っていなければならない。
 なぜ狙われるのか。これがわからないのが現代のテロである。しかし、水道は命にかかわる水を送る施設だから、テロに狙われやすい施設であるという認識を持たなくてはならない。1978年に千葉県水道局北総浄水場に廃油・毒物投入事件があった。世界に例を見ないほどの事件であったが、この場合は成田闘争という社会的現象があった。今から考えれば、浄水場側は無防備ではなかったがもっと注意しておくべきであった。
 しかし、安全な国でまさかそんなことをする人はいないと思うのが今までの考えで、自分の主張を遂行するために、直接空港と関係ない水道に毒物を投入するするのはまさかと思う時代であった。オーム真理教のサリン事件も、一般の人にはその目的が全くわからない事件であった。目的がわからないから、標的もわからず、予測が付かないからあらかじめ防御手段をとることができない。
 現在は国内においても、理解に苦しむ殺傷事件が多発している。外国ではロンドンの地下鉄爆破や北京オリンピック絡みの人権・独立要求テロのように、世界では国境を越えてテロが多発している。このような情勢では、相手はわからないが、命にかかわる施設というだけでテロに狙われる可能性はある。水道施設は面的広がりが大きいので狙われやすい。
 だから、これからの水道は、テロ対策を常時考慮して管理しなくてはならない。具体的には、@浄水場などの水道施設の警備強化 A来訪者の管理の徹底 B魚類などを利用した安全性の確認 C、緊急時における警察、医療機関などとの連絡体制等の確立、などがあらかじめ取ることのできる対策である。
 水道施設のうち水が湛えられている水源地や浄水場が公園的に市民の憩いの場所となっているところが多い。呉市の三永水源地、本庄水源地などがその典型的な例である。桜やつつじきれいな施設も多い。たとえば、横浜の西谷浄水場は桜がきれいである。新幹線新神戸駅に近い神戸市水道発祥の地にある北野配水池のヒラトツツジもいい。↑ページのトップ

080728 クリプトスポリジウム
 セミナーでは、埼玉県衛生研究所の山本徳栄氏が「クリプト等の微生物問題を越生町(おごせまち)の事例から考える」という題で話された。わが国に衝撃を与えた越生町のクリプト事件を、もっとも身近にいて集団下痢症をクリプトスポリジウムが原因であると突き止めるまでの経緯を生々しく語ってくれた。
もう十二年以上前の話であるが、わが国の近年における水道水質に関してもっともインパクトのあった事件であった。小生は暫定対策指針を立ち上げた委員会の委員長として、事件の全体は把握しているが、現場の検査技術者の経験談は興味深いものであった。
大事件が発生した背景には、浄水場の凝集操作にミスがあったことはわかっていたが、そのことを文章として指摘したものはあまりないが、今回の発表レジメにはそのことが明記されている。
また、流行時に1日だけ町内に滞在し、コップに半分〜2杯の水道水を飲んで感染した人が7人いること、潜伏期間が5〜8日であったこと、小、中学生の発症例1,013人の有病期間は平均5.2日(1〜15日)、成人187人の有病期間は平均4.8日(1〜18日)、発熱した小、中学生469人の体温は37.8℃(36.7~40.5℃)であったなどの報告は参考になる。
小生の講演終了後の質問で、紫外線採用の時の濁度は0.1度ではなく2度ではないかとの質問があった。現在の対策を提示する時は小生は関与していなかったので、自信がなかった。後で調べたら2度であった。国が決めた指針であるからそれでよいが、小生がまだ関与していたなら2度では反対したであろう。水道法が2度だからそれとの整合性をとったものであろうが、濁度2度というのは消毒を邪魔する数字としては大きな数字である。微生物の大きさを考えてみればわかる。
やはり濁度は0.1度にすべきであろう。0.1度なら塩素消毒でよいとして、そこまで濁度が小さければクリプトは除去されていると判断したのであろう。紫外線を導入しやすくするために濁度について水質基準値をそのまま適用したようであるが、消毒の観点からは高くても1度にすべきである。
残留塩素は何のためにあるかをもっと基本的ところから見直す必要がある。残留塩素があれば消毒できているという単純な思いこみが強いようである。オルトトリジンで残留塩素を測定していた時に、発色して誰でも判断できるのが、遊離塩素で0.1mg/Lであった。それが目安になって基準化された。
しかしそれではクリプトスポリジウムは全く不活化できないし、多分ウイルスについても安全を保証できないであろう。安全が保証できないなら、臭いで嫌われないように残留塩素にこだわらなくてもいい・・・・というようなことを皆さんの講演を聴きながら考えていた。↑ページのトップ
080722 32 健在、緩速濾過

 
名古屋では緩速濾過池が健在である。原水の木曽川がきれいであるからかも知れない。比べて、都市の真ん中に広い面積の浄水場があるのは土地がモッタイナイという理由で、浄水場が郊外に追われたのが東京都の淀橋浄水場である。今は高層ビルが建ち並ぶ東京の新宿副都心は緩速濾過を行っていた浄水場の跡である。原水は多摩川の羽村から来ていたから汚染が理由で浄水場が取り払われたのでなくて、新宿という一等地という土地の利用価値の点からである。
 名古屋の鍋屋上野浄水場は今は住宅地の中にあるが、名古屋の中心街でないことが幸いして、まだ緩速濾過池が健在である。緩速濾過水は一般に急速濾過水より水の仕上がりがよく美味しい。標準濾過速度(4m/日)以下であれば、濁度は砂層表層20cm以内で約99%除去される。クリプトスポリジウムの大きさに相当する3〜5μmの粒子についても同様のことがいえる。原水の存在量が1個/10Lであるので、クリプトスポリジウムについて十分の除去が期待できるとのことである。
 大腸菌群を指標として微生物の除去の状態を見ると、濾過膜部分(表層数センチ)で微生物が抑留される。2-MIBのようなカビ臭物質もよく除去できる。7ng/L の水が緩速濾過で完全に除去されている。またアンモニア性窒素が除去されるので、塩素消毒後に塩素臭の強いクロラミンが生成することがない。そのため、急速濾過の場合より塩素臭が弱いとのことである。クロラミンはアンモニア性窒素に塩素が結合したもので、カルキ臭として嫌われる。
 緩速濾過の問題点の一つは、濾過膜が詰まってきたら表面を削り取りをすることである。アイススケート場で溶けた水を取り除くような熊手みたいなものを使って、濾過膜の表面2pほどを削り取っていくのであるが、表面だけを薄く削り取るには経験を要する。団塊の世代の退職で経験者が少なくなったことと炎天下のキツイ作業のため、今は機械化しているとのことである。
 削り取りのため多くの人が必要であった。そのため水道の労組は強いので、機械に転換したのはその対策もあったと推察する。今はそのような作業は外注していると思われる。しかし、機械は人力ほど上手く除去はできない。数十年前にもすでに機械削り取り機は考案されていて、ヨーロッパなどで採用されていた。しかしあまりうまく機能しなかったが、今も機械では5pほども削り取ってしまうらしい。微妙な作業は人の手がいいのかも知れない。
 緩速濾過池は広々としていて、工場的雰囲気よりも公園に似た光景を醸し出す。ただこれから注意しなくてはならないのは、面積が広い分、テロリストに毒物を混入される可能性が高いことである。もう一つ、鳥による病原体の持ち込みである。鳥インフルエンザがいつの間にか養鶏場に侵入するように、空を自由に舞う鳥がウイルスを運んでこないとは言い切れない。水道界はもっとウイルスに注目すべきである。
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080714(31) 地下水利用セミナー
 
7月4日に第4回地下水利用セミナーというセミナーに「水道における微生物問題と水質の安全性」という題で講演を頼まれた。講演をすると共に他の発表を聴講した。セミナーの副題は「伏流水の水質管理とクリプト等微生物除去技術について」である。
 まず驚いたには出席者が多かったことである。セミナーの名にふさわしいくらいに数十人の出席者がいた。自分が関係していたNPO法人の講義には十数人しか出席者がいない。もちろん単発のセミナーと毎月連続の受講を必要とする講座ものでは受講生の負担が異なるので、出席者の数に差が出るのは仕方がない。それとテーマが決まっていて、当該実務に関心がある企業や水道局が集まりやすかったことも関係している。
 発表についてまず小生が楽しかったのは、名古屋市上下水道局鍋屋上野浄水場水質係長古橋氏の緩速濾過の話である。自分がかつては勤めていた職場であり、話に出てくる施設の名前は知っていて、目に浮かぶものが多く、懐かしく感じた。小生が勤めていた時は、一つの工場の排水のために原水が汚染され、水質基準であった過マンガン酸カリウム消費量(現在はこの項目はTOCに変わっている)の値を基準値以下にするのに苦労した。
 その排水が流入しない現在は、原水(木曽川)は大変きれいで、濁度の年平均が6度程度とのことであった。上流で大雨が降ると河川が濁る。昔はその際、水質担当者は徹夜勤務になった。凝集剤の硫酸アルミニウムの注入率が激変した。また木曽川はアルカリ度が低いので高濁度時はアルカリ剤添加が必要になる。そのための徹夜である。
だから大雨が降るとまた徹夜かと気が重くなったものである。仕事優先だから、私用があってもキャンセルしなければならない。ところが現在は高濁度時は年に3回ぐらいで、凝集剤をPACに切り替えるだけで済み、あまり苦労はしなくていいらしい。
 わが国の大きな浄水場で緩速濾過を行っていた処の多くは、急速濾過に切り替えた。緩速濾過池は広い面積を必要とするので、都市部においては面積効率の点で不利だからである。緩速濾過は生物作用が水の浄化に関与するから、河川が汚れると扱いにくくなる点もある。淀川水系では緩速濾過池がなくなってしまった。
 関東では東京都の境浄水場、神奈川県営水道の谷が原浄水場など、緩速濾過池が健在のところがある。境浄水場では、まだ公衆衛生院の学生の頃、1週間研修で、小島貞男先生にご指導頂いたことがある。
 緩速濾過は、その浄化に生物が関与し、一方で原水中の植物プランクトンによって濾過閉塞が起こるので、植物プランプトンの制御が重要な管理項目になる。そのため、わが国の水道水質の先駆者には、生物系の方々が多い。近藤正義、小島貞男、八木正一、川北四郎(敬称略)などの錚々たる方々が輩出した。
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080620(30) 民営化−5 欧米か

 世界には売上1兆円、従業員数万人を抱える巨大水企業がある。スエズ(Suez、フランス)、ヴェオリア(Veolia、フランス)、RWE(ドイツ)、GE(米国)、シーメンス(Siemens、ドイツ)などの巨大水企業がある。
これらの巨大企業がアジアに積極的に上下水道経営に乗り出しており、わが国でも水処理会社やコンサルから派生した民間企業が育ってきて、海外進出の機会を伺っている。
 事業や商品がグローバル化すると、世界的なルールや技術基準が必要になる。しかし残念なことに、一見公平そうに見えるけれど、ルールや基準を作る時、現在の世界は欧米主導である、ISO(国際標準化機構)は全世界平等の基に機能していると言うよりも、欧米の世界戦略の武器になっている。彼等の都合の良いように作り、それにわが国が合わせる。一番優れていたNHKハイビジョン方式は欧米式に決まった。携帯電話もしかり。
 ISO14001を国際基準だからと思って競ってわが国の企業、自治体が認証を受けたが、欧米の集金マシーンに乗せられたかたちで、わが国が世界で一番多くの認証を受けている。完全に民営化すると、命に関わる部分も国際化の名のもとに、欧米の企業化の波に曝される。わが国の水道は、今までは公営を建前にしていたので、欧米の大企業が入り辛かった。
 民間の力を取り入れられるところは取り入れるようにするのは悪いことではないだろう。法的に民が入りやすいようにしたことは頷ける。しかし、郵政民営化の時の勢いと雰囲気で、何が何でも民営化に移行するのは考えものである。
 今、欧米ではペットボトル水より水道水をという流れが起きつつある。地球環境問題の観点から、省資源と省エネルギーの観点から、せっかく構築されていて、料金も安い水道水を利用しようということである。例えばサンフランシスコ市のキャビン・ニューソム市長は、市役所でボトル水の購入を禁止し、市内レストランのメニューからボトル水を排除するよう勧告をしている。
 日本人が水の代わりにワインを飲むと誤解しているフランスで水道水を飲む割合が59%で、ボトル水の41%を上回っているという結果を国民意識調査機構の調査結果が4月に公表されている。割合環境問題に敏感なヨーロッパであるから、案外早くペットボトル水利用のブレーキがかかるかもしれない。
 ペットボトルから水道水に回帰し、水道水を飲むという立場で水道を経営するなら、最終責任だけでなく、主要プロセスは公で維持管理すべきと思う。水道の民営化の動きの一つに,労組対策がある。労組は労働条件獲得のためにある。民間の過酷の労働・賃金条件、公営の場合の管理者を悩ませる労組の力。どちらをとるか。
 水道は地域独占の企業である。他企業との競争をしなくて済む。民営化しても簡単には潰れない。公から民への流れには逆らえないかもしれない。民営化して、施設と水質の劣化が起きれば、再びボトル水回帰する手もある。
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080617 (29) 民営化―4 水道を経営するということ
  企業は利益を上げるために合理化に努める。業務委託など民の力を導入する時に、企業選定のために、一般に競争入札が行われる。競争入札がおこなわれると、コストはどんどん下がっていく。コスト削減は生産性の向上で実現すべきであるが、競争に勝つために人件費まで削り、そのしわ寄せは過重労働や派遣労働者、アルバイトの採用など労働条件と雇用条件の悪化となって現れ、格差社会を促進させている。
 安い価格は何かを犠牲にして達成できているという現実にわざと気が付いていないのか、市場原理に任せる自由な競争が正しいと主張した小泉・竹中路線のため、世の中の格差が大きくなり、モラルの低下を来した。
 このような状況下で、水道を民営化することは、民間を潤し且つコスト削減によって市民に貢献するように見えるが、実は公の責任回避と社会モラルの低下をもたらし、結局は市民の期待に応えることはできない結果を生む。その結果が分かるまでに時間が掛かるので、それに気づかず民営化が正しいと思って悪い道を進んで行くように思える。
 先日、さる中都市の水道局の方から、浄水(塩素消毒済み)から一般細菌が数個/mL検出されることがあるけれどどうしてなのかという相談を受けた。一般細菌の水質基準値は100個以下/mLである。十分基準を満足しているのに、何か水質を劣化する要因があるのではないかと心配するのである。
 民間企業であったら、水質基準を十分満足しているのに余分な作業はしないのではないだろうか。余分なコストをかけないのを至上とする民では、水質基準さえ満足していれば誰にも罰せられないから、余分なコストを注ぎ込むようなことを考えないのではないか。しかし、塩素消毒をしても生き残る細菌がいるということは、水質を劣化する要因が存在しているはずである。水質劣化の要因を少しでも減らそうとすることを公の場合はするのである。
 基準を満たしていれば余分なことはしないという立場をとるか、より安全性の追求の立場から水質基準に囚われない立場をとるのか。この微妙な差が、民と公の差に出てくる可能性が大きいと小生は思うのである。小生は命により近い水道経営は、余分なコストをかける立場をとる方がいいと思うのである。
 民営化における懸念をもう一度列挙すると;
○ 安全性が犠牲になる可能性がある。
○ 清浄、豊富、廉価のうち、もっとも柱になるのは清浄。
○ 量があってはじめて質の概念が出てくる。そして量は金になるが、質は金にならない、だから量だけに依存する経営になりやすい。
○ 多くの水道回避を招く事故は、質を無視したことが原因。
○ 利潤のためには、質を無視して量を確保する方向に走る懸念がある。
 量と質と価格が、例え災害があった場合でも、公の場合と変わらないのであれば、民営化に反対する理由はない。公の常識を外れた労働条件は是正さるべきであるが、民における従業員の搾取的労働条件も避けねばならない。→ページのトップ
080613 水道の民営化−3 民の原理
 民間は利益を得るために無駄を省き、合理的に組織を運営する。一方公営は無駄が多く組織の運営がマンネリ的になりやすい。このようなことから民営化の話が生まれてくるが、合理化しても利益が得られなければ、会社はその事業を放り出す。外国の民営化水道でそのような例が見られる。慈善事業ではないから当然である。
 水道は飲み水を配るという前提から、民営より公営がいいと思っていることを述べてきた。命に直接係る文字通りのライフラインであるからである。飲み水をボトル水で摂り、水道水は雑用水として利用する形態をとるなら、命との距離が遠のくから民営でいい。
 要するに、水道は安全な水をいかなる場合でも、確実に、安価に供給することできるのが理想である。それができれば公営でも民営でも構わない。公の場合がその実現の可能性が民の場合より高いと思われるから、小生は民営化を躊躇するのである。
 水道事業を資本、責任、運営に分けてそれぞれに公、民の分担を振り分けてみると、公設民営(公、公、公、わが国の現状)、私設公営(民、公、公)、部分委託(公・民、公、民、人材派遣など)、私設民営(民・公、公、民、最終責任は公、PFIなど)、部分委譲(公・民、公・民、民、維持管理の委譲など)、公設民営(公、民、民、フランス型)、私企業化(民、民、民、JRやNTTなど)に分けることができる。
 小規模水道でしかるべき技術者が得られない場合に、民間の力を借りるのは頷ける。だれかが管理しなければならないからである。また、水道施設全体でなく、飲み水に直接関わらない施設をPFIなどで民間の力を利用するのも可能な選択肢である。
 要するに命との距離がそれほどでない部分(検針や排水処理など)を民間に任せることは問題ない。
 横浜市水道局は、川井浄水場の再整備をPFI事業(事業名:川井浄水場再整備事業)として実施することを公表した。再整備後の浄水処理方式には膜濾過を採用することとし、処理能力は172800m3/日と、国内最大の膜濾過施設となる。PFI事業で整備するのは膜ろ過施設のほか、配水池(有効容量30,000立方メートル)と排水処理施設など。事業方式は、民間事業者が施設の設計・建設・工程管理を行い、同局に所有権を移管し、民間事業者が施設の維持管理・運営を行うBTO方式で、事業期間は平成21年度〜45年度。新設施設の供用開始は26年4月を予定している。
 相当の部分は民間に任せても良いが、浄水部分の維持管理まで任せて良いかは疑問である。人事管理が面倒だから、事務量を減らしたいから民間に任せるというのは責任回避になる。
 最近、浄水場や下水処理場を見学すると、委託された会社の人が働いているのを見ることが多い。中には相当勉強していて、熱心な方に出会うことがある。公の人よりいいと思われる場合がある。それでも儲ければいいという民の原理で働いているのである。→ページのトップ
080612 水道の民営化−2 水源の保護
 水道はライフラインのうちで最も生命に直接係る水を供給するシステムである。民間会社は基本的には儲けるための組織である。慈善事業ではない。水道は慈善事業に近い。赤字では事業として成り立たないから、地方公営企業として必要最小限の収益を得るように経営する。ゆえに、水道料金を決めるには地方議会の議決が要る。水道で金儲けをしようとすることが間違っている。
 わが国は「安全と水はタダで得られる」と言われて時代があった。安全はタダでは得られないことは昨今の世相から誰でも了解していることと思われる。水については、水源保護、浄水処理、送・配・給水の施設構築と管理に費用が要る。もし利益が得られるなら、それは料金に還元すべきである。
 清浄な水道水を得る基本は水源保護である。なにも処理をしなくてもいいような水を理想とする。そのためには水源そのものが正常に保たれていなければならない。多くの水道では原水取水口の上流に原水の集水域が存在する。多くの場合その集水域は水道事業体とは異なる行政区域に存在する。
 自らの水源林を持つ場合と自己の自治体の行政力が及ばない場合がある。いずれの場合も自然そのものに働きかける必要がある。関係する自治体が複数ある場合も多い。自然保護の行政は官が行っているので、そこに割って入って自然保護に関する交渉をすることは民間ではやりにくいし、金にならない。
 公務員は採用されると研修の最初に「公務員は全体の奉仕者」ということを叩き込まれる。憲法第15条第2項、地方公務員法第30条にそのことが明記されている。水道局の職員は市民の命を守っているという気概がある。水道のような命を支えるライフラインを提供する組織の職員にはこの気概が必要である。利益を優先する民間企業にそれを期待できるだろうか。
 小生が名古屋市水道局に勤務していた時、伊勢湾台風があった。朝起きたら街の姿が一変していた。日曜日であったが、家のことを省みずにすぐ勤務地である浄水場に出掛けた。そうしたら出動命令が出る前に、係のものが全員出勤して来た。
 全体の奉仕者であるから、家庭の事情などプライベートのことより職務が優先するという自覚を皆が持っていたことがわかった。プロ野球の選手が、特に米国からの選手が、妻の出産でシーズン中に帰国するケースがよくある。「全体の奉仕者」的考えからはそのことは理解できない.
 欧米では個人主義の度合いが強いので、職場優先の考えはないのかも知れないし、全体の奉仕者の考えもないので、水道の民営化に何の抵抗がないのかも知れない。小生は祖母が亡くなったとき、家族の公務優先の考えから何の連絡も受けなかった。正月に帰省した時に祖母の姿がなかったので、何所にいると聞いて初めて亡くなったことを知った。
 水道は、軍隊と同じで、個人の事情より、市民全体のために働くことが要求される職場である。それが嫌なら、職場を離れるべきである。→ページのトップ

080609 水道の民営化−1 全体の奉仕者ということ
 これからの水道の課題の一つは民営化である。「民でできることは民」と言う小泉内閣の旗印の下に、郵政が民営化された。次の民営化の対象となる公共事業は水道である。水道は郵政と違って全国組織ではない。市町村を基本単位とし、その単位地域では独占的に経営する。
 自治体が水道を経営するのは、水道法の第6条に、水道法は原則として市町村が経営するものとすると決められているからである。さらに「地方公営企業法」と言う法律があり、自治体は、「地方自治の発達に資すること」を目的として「公共の福祉の増進」のために経営することと謳っている。
 そのために、市町村の自治体経営として水道は発展してきた。県営や一部事務組合のように市町村の枠を越えた水道も、地域の事情によって経営されるようになったが、いずれにしても公共団体が運営母体である。
 しかし、上記2法が改正されて民間への責任の委譲を伴う委託が可能になり、水道事業の施設を民間に全面的に貸し出すことも可能になった。その結果、第三者委託(業務委託、包括委託)、PFI(Private Finance Initiative)などが次第に行われるようになってきた。
 PFIとは、公共施設等の建設、維持管理、運営に対して民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用する手法で、より民営化の色彩が強い。
 JRや郵政のようなマンモス事業体が民営化された。民営化の流れが当然のごとく受け止められている。最後の大規模な公営事業が水道である。電気、ガスのようないわゆるライフラインは最初から民営であるから、水道も民営化しても何の不思議でもない。
 下水処理場の維持管理が民間委託になっているところが増えてきたが、その流れが水道の浄水場の運転管理に向かい、小規模水道で技術者が得にくい所の維持管理に民間の力を借りるケースが出てきた。
 また「民でできることは民」の論法でいくと、民でできないことは何もない。戸籍や住民票などの事務も民でできる。なぜ民でやらないのか。人間がやることだから秘密保持・個人情報の漏洩防止などは民であろうが官であろうが同じである。しかし、儲からないからといって投げ出されたら社会が機能しなくなる。必要な書類という足元を見て、儲けのため手数料を上げる可能性がある。
 このコラム07/10/29の「戦争民営化」で述べた如く、国防も民営化は可能である。部隊毎に請け負った会社が異なるという面白い現象が起きるかもしれないから、指揮命令系統に工夫が要る。「国を守る」という意欲も、市場原理だけで集まる人に期待することはできないと思われるが、民間のガードマンの勤務ぶりは、官である警官と変わらない。
 それなら水道は民営化すべきか。それでも小生は民営化反対である。水道の場合は、公設民営が多いが、基本は公設公営と思っている。理由は、水道で金儲けをする必要はない、水道は水源を通して環境と密接に結びついている、職員の「全体の奉仕者」という意識は官のほうが強いなどの理由による。
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080528 水道の来し方行く末(25)紫外線消毒まとめ
 
紫外線の使用がある条件下でオーソライズされたが、あくまでもクリプトスポリジウム対策の場合である。紫外線消毒のクリプトスポリジウム対策としての特徴を挙げると;
 1.感染力は、照射線量に応じて指数関数的に減少する。
 2.2log10不活化線量は、1mJ/cm2 と低い線量で有効である。
 3.水温に効果が影響を受けない。
 4.効果は、照射線量(照射率×照射時間)にのみ依存する。
 5.クリプトスポリジウムの株の違いによる消毒効果の差は、無視できるほど小さい。クリプトスポリジウムと同様に問題となる原虫であるジアルジアに対しても、紫外線はクリプトスポリジウムと同じぐらいに、不活化することができる。
 紫外線に限らず生物に影響を与える薬剤は、特定の生物だけに影響を与えるわけではないので、他の目的で添加したものも不活化効果をもたらす。例えば、異臭味分解にオゾン処理する場合があるが、オゾンは消毒力が強く、異臭味物質を分解するだけでなく、細菌のほかウイルスを不活化する。少し多めに加えればクリプトスポリジウムにも効果があるし、もっとも始末に困る炭疽菌の芽胞に対して、水処理で使っている薬品の中、唯一効果が期待できるのがオゾンである。
 クリプトスポリジウム対策として照射した紫外線も、その水に細菌やウイルスが存在すれば、それらの不活化に効果がある。ただ残効性がないため、水道法上は紫外線だけで消毒が完了するという立場は取っていない。
 濁質を除去する工程は、当然クリプトスポリジウムも取り除くことが出来る。凝集剤として使用されている硫酸バンドやPACを用いた凝集沈殿でも2log以上の除去を期待できるが、塩化第二鉄あるいはこれらの無機凝集剤と高分子凝集剤を併用すると、クリプトスポリジウムの処理性は向上する。
 また、水温が低下すると、急速濾過工程の除去率が低下するが、未濾過水へ凝集剤を添加すると処理効果が上がる。急速濾過工程において、逆洗浄直後は濾層に残留していた微粒子が漏出する。そのまま濾過を開始すると、洗浄後であるからそれほど多くないが、僅かな量のクリプトスポリジウムが漏出する可能性がある。
 そのため、逆洗水に凝集剤を加えておくと、漏出が少なくなる。もちろん、逆洗浄した後の洗浄汚泥を適切に処理・処分しなければならない。もし原水に病原体が含まれていたら、汚泥経由で感染症を引き起こす可能性があるからである。
 厚生労働省のクリプトスポリジウム対策指針を守っていれば、クリプトスポリジウムおよびその他の原虫汚染に対して心配はまず無いといってよい。ほんの少し心配なのは、指標菌が検出するための検査は連日行うのではない。もし検査の合間に汚染されたら、塩素にだけに頼った消毒では対応しきれなくなる可能性がある。
 地球温暖化が進み、国際交流が激しくなった今日は、もう膜や紫外線を常用する時代かもしれない。
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080512 水道の来し方行く末(24)消毒12 紫外線による消毒−2
 
消毒力があり取扱も簡単な紫外線が、水道で使われなかった大きな原因は、残留効果がないことと塩素に較べて価格的に太刀打ちできないことである。水道は使用する末端まで安全でなくてはならず、そのためには消毒剤が末端まで残っていなくてはならないと判断されているからである。その点では紫外線は落第である
 法的には末端まで遊離塩素が0.1mg/L、結合塩素なら0.4mg/Lが残っていなくてはならない。紫外線がクリプトスポリジウム対策で用いる場合も、最終的には法的に義務づけられている塩素を添加して残留塩素を維持しなくてはならない。末端に求められている残留塩素についての小生の意見は、このコラムでも既に述べている。
 紫外線が消毒用に補完的に認められるのは、クリプトスポリジウム対策だけであって、一般的に認められているわけではない。その採用条件は厚生労働省水道課の通知を見てもらえばいいが、簡単に言えば、指標菌(大腸菌及び嫌気性芽胞菌)が見つかるような原水が、処理などで濁度0.1度以下の水質が得られるなら、10mJ/cm2の紫外線処理でクリプト対策として認めるというものである。
 紫外線の消毒力については、雑誌「水」新年増刊号(2008)(橋本、金子)にコンパクトにまとめてあるから参照されたい。クリプトスポリジウムは、生活環の1形態であるオーシストのいうものとなって排泄される。オーシストの中には4つのスポロゾイドが存在する。上記の程度の紫外線照射した場合、スポロゾイドは完全に死んでいない。しかし感染力は失われている。要するに、クリプトスポリジウムは死んではいないが感染力がない状態である。
 クリプトスポリジウムのオーシストの大きさは4〜6μmであるから、それより目の小さい分離膜を用いれば、クリプトスポリジウムは完全に除去される。しかし膜分離施設にかかる費用の他に、目の細かいところに水を通すには圧力が必要である。そのための電気代が嵩む。規模の大きく技術力のある事業体は、クリプトスポリジウムを除去するのにそれほど困らない。
しかし、簡易水道のように何も処理をせずにただ塩素を注入して給水する小規模のところでは、膜処理装置導入は重荷になる。そのようなケースにおける消毒の選択肢の一つとして紫外線照射は導入された。
 わが国では、下水道が水道より早く紫外線照射施設が実施設に導入された。それは、水道では欠点となる残留効果がないことが、下水道では利点となるからである。処理水放流口下流において、公共用水に生育する生物に害を与えないからである。
 水道関係では横須賀市の走水の湧水に紫外線が用いられた。横須賀市走水には国登録文化財になっている水道施設がある。そこの国道16線に面した水道管理センターの煉瓦壁面に、横須賀水道の建設功労者フランソワ・ヴェルニー彫像というのがあり、そこから湧水が流れていた。ヴェルニー水という。それを紫外線消毒して市民が飲めるようになっていた。咽を潤す程度に利用してもらうためのものだったが、湧水なのでそれなりの需要がありポリ瓶などに汲む人がいて、交通渋滞を来したため、中止となった。・・・と書いている時に情報が入って、3月26日からヴェルニー水を再開したという情報が入った。駐車場と水洗を整備し、膜濾過した水を供給し出したとのことである。
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080408 水道の来し方行く末(23) 消毒11(紫外線による消毒−1)
 
1996年に埼玉県越生町で水道水によるクリプトスポリジウム(原生動物の病原体;原虫である)起因の感染症事件が起きて、応急的にクリプトスポリジウム等暫定対策指針が、さらに1997年に「暫定」が取れた対策指針が提示された。この過程で、クリプトスポリジウム対策として、浄水管理において浄水濁度を0.1度、汚染指標としての大腸菌群を大腸菌としたことはこれまでに述べた。指標菌として嫌気性芽胞菌も採択されたがそれについては割愛する。
 クリプトスポリジウム対策を取るようになってからの水道技術上の大きな変化は、膜処理技術が多くの処で採用されるほどに進んだこと、および紫外線照射をするところが出てきたことである。2007年の厚労省水道課長通知「水道水中のクリプトスポリジウム等対策の実施について」によって、塩素消毒を補完する消毒方法として、はじめて上水道において紫外線処理が使用できるようになった。
 紫外線が消毒に有効であることは古くからわかっていた。食品を扱う作業場の空気、理・美容院などで扱い器具などの消毒に使われていることはよく知れ渡っている。小生は就職してすぐ微生物を扱うようになったが、そのころ既に細菌実験室や無菌箱の消毒に紫外線が用いられていた。
 紫外線は有機物の2重結合部位にエネルギーを与える。そこで、遺伝子構成因子であるDNAのプリン塩基やピリミジン塩基に作用し、2量体を形成しDNA複製能を失活させて増殖能力を奪うことが、紫外線の消毒作用のメカニズムである。
 紫外線とは可視光線より短波長の電磁波であるが、DNAの最大吸収波長の260nmに近い波長250〜275nmが消毒に最も有効である。紫外線ランプには低圧のものと中圧(高圧)のものがあり、古くからの殺菌線ランプと言われるのは主波長254nmの低圧ランプである。中圧ランプは220nmから可視光領域に至る幅広い波長領域の連続光を発する(主波長365nm)。
 紫外線消毒の特徴は;
長所 @薬品を添加しない。
   A接触時間(照射時間)は短くてよい。
   B副生成物が発生しにくい(全く発生しないということではない)。
   C比較的安価(塩素消毒より高い)。
   D蛍光灯を点灯するような感覚で操作できる。
短所 @残留効果がない
   A濁質、色度によって光が吸収されて効果が削減する。
   B線量を変化させて運転しにくいので、最悪条件に合わせて運転す       る。そのため必要以上のエネルギーを与えて運転する時間が長くなる。
   C細菌では光回復がある。可視光線によって不活化したものがある率で回復する。
    原虫の感染力は回復しないと言われる。
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080407  水道の来し方行く末(22) 消毒10-大腸菌
 
大腸菌を測定するのは、大腸菌が病原体だからと思っている向きが多い。大腸菌O157などの感染症事例が報道されているからである。大腸菌にはいろいろな種類があり、病原性のものはその一部である。検査ではその大腸菌を測っているのではない。
 われわれ人間は腸管に大腸菌を必ず含み、糞便1g中には1億個以上の大腸菌が存在する。大腸菌を含まない便を排泄する人は、抗生物質を飲まざるをえないような病人である。大腸菌が検出された水は糞便に汚染されたと判断できる。糞便に汚染された水は消化器系感染症の病原体を含む可能性が高い。便の中に大腸菌が多量に存在するから、検査で見つけやすい。このような理由で、大腸菌が消化器系病原体の指標として検査されているのである。
 水道水以外にもいろいろな水があり、微生物的安全性の指標として大腸菌、大腸菌群、糞便性大腸菌群などが用いられている。できれば一つに統一することが望ましいが、各分野の事情やコストの問題もあり、ばらばらになっている。下水処理水の再利用水基準では、小生が検討委員会の委員長を務めたこともあり、大腸菌群から大腸菌に切り替えた。環境基準も大腸菌に切り替えれば、基準適合率がもっと上がるはずである。現在は糞便汚染に関係ないものまで測っているので基準適合率が低い。
 まだ大腸菌だけを調べる簡便な方法が開発されていない頃、培地や温度条件を変えて糞便由来の大腸菌だけを出来るだけ検出できるような方法が検討された。きっかけは、環境基準項目の中で、基準を満足していない割合が、大腸菌群だけが特に高いからであった(今でもそうであるが)。下水処理の普及など、努力しているのに大腸菌群項目の適合率が改善されない。測定方法に問題があるのではないかという疑問からであった。
 大腸菌が存在しないにもかかわらず陽性になるような測定方法がおかしいのではないかと考え、さる委員会で検討することになった。この時も委員長を務めた。結論として、現在も環境基準に採用されている方法より、糞便性大腸菌群を測定するほうがよいということになった。しかし、その頃、NOxの基準が緩められ、そのことが激しくマスコミに叩かれた。それが影響し、「測定方法を変えて基準合格率を高めるとはとんでもない」との非難を浴びることを恐れて行政当局は測定方法に手を加えることを控えた。
 しかし、より合理的な方法を検討した努力が、そのまま無視されることは忍びない。そこで、法的基準ではない水浴場の適否の判断基準に用いることになった。現在でも水浴場が水浴に適しているかどうかの判断には、糞便性大腸菌群が用いられている。小生はこれらの基準も大腸菌でいいと思う。
 大腸菌について長く記述したが、これは消毒の効果を具体的に知るための指標となっているからである。
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080327 水道の来し方行く末(21) 消毒9-大腸菌と大腸菌群の違い
 
クリプトスポリジウム暫定対策において、水源がクリプトスポリジウム等に汚染されている指標として、嫌気性芽胞菌と大腸菌を指標菌とすることにした。水関連の法的基準では全てが「大腸菌群」であったが、ここで初めて「大腸菌」としたのである。その流れが、その後の水道法に基づく水道水質基準における「大腸菌」への変更に繋がった。
 水道水質に関して、素人の方々に十分理解してもらえないことが二つある。@塩素イオンと塩素の違い、A大腸菌群と大腸菌の違い、である。
 前者についてはこのコラムですでに述べた。後者については、簡単にいえば大腸菌群の中に大腸菌があると思ってもらえればいい。腸管に多数存在する大腸菌を指標にしたかったのであるが、大腸菌という細菌種だけを短時間に検出する技術がなかった。大腸菌を測定するつもりが、ある限られた時間では大腸菌以外のものを検出してしまう。時間をかけて厳密に検査するのは、安全性モニタリングの日常業務には適さない。そこで、検査の手順を途中で打ち切ってもいいと割り切って検査することになった。だから、検査で陽性になっても大腸菌以外の細菌が含まれる可能性がある。検査で陽性になっても、大腸菌が含まれないことが多い。
 そこで、検査方法の都合で大腸菌以外のものを含む可能性を考慮して、大腸菌に「群」を付けたのである。大腸菌の学名はEscherichia coli であり、生物命名法の約束で種名としてイタリックで書くけれど、大腸菌群は学名ではないのでColi form groupと書く。
 クリプトスポリジウムが話題になる頃から、大腸菌を短時間で測定できる技術が開発され、経費は以前より高くつくが日常業務に使えるようになった。もともと大腸菌を測定するつもりが、それができなくて、大腸菌群で折り合いをつけてきた。大腸菌が測定できるようになれば、それを使えばいいのではないかという考えから、暫定基準ではクリプトスポリジウム汚染の指標として、「大腸菌群」ではなくて「大腸菌」を測ることにした。
 クリプトスポリジウムの暫定対策指針の後に、水道水の水質基準が改定されたが、上述の考えがそのまま踏襲されて、水道水でも大腸菌群から大腸菌に変更された。改正された方法でも厳密には大腸菌以外のも測定される場合があること、および安全性を求められる水道水では、大腸菌だけでなくそれ以外のものが測定されても安全サイドのバイアスになるから、大腸菌群でもいいのではないかという意見もある。しかし安全であっても安全でないと判定してしまうというケースが案外多いことから、大腸菌に踏み切った。
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も く じ
081205 水の安全保障1
081125 先を見詰めた経営
081105 学校への直結給水
081007 ボトル水に水道水質基準の適用を
081001 水道水離れ
080929 マイクロバブルの利用
080925 テロ対策 4
080910 テロ対策 3
080904 テロ対策 2
080821 テロ対策 1
080728 クリプトスポリジウム
080722 (32)健在、緩速濾過

080714 (31)地下水利用セミナー
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