「環境技術」2004年11月号 記事情報

掲載年 2004
巻(Vol.) 33
号(No.) 11
803 - 803
記事種類 特集のねらい
記事タイトル 「酸性雨長期モニタリングの現状と課題」特集
著 者 玉置元則
第1著者ヨミ たまき
第1著者所属 (財)ひょうご環境創造協会
要 旨
特集タイトル 酸性雨長期モニタリングの現状と課題
特集のねらい  環境省が実施してきた第1次から第4次までの酸性雨対策調査など1983〜2002年の20年間の調査結果が今年6月にとりまとめられた.ここで得られた主な知見は,(1)全国的に欧米なみの酸性雨が観測されており,また,日本海側の地域では大陸に由来した汚染物質の流入が示唆された,(2)現時点では,酸性雨による植生衰退等の生態系被害や土壌の酸性化は認められなかった,(3)岐阜県伊自良湖等への流入河川や周辺土壌において,pHの低下等酸性雨の影響が疑われる理化学性の変化が認められた.ただし,これらの変化はいずれもただちに人の健康ならびに流域の植物及び水生生物等の生態に何らかの影響を及ぼすレベルにはない等である.しかし,この20年のモニタリングでは測定手法が何度も変えられ,測定地点も移されるなど,評価に際しての欠点も指摘されている.
 典型的な大気汚染物質である硫黄酸化物や窒素酸化物等のモニタリングと法的規制の間には次の関係がある.昭和42年8月に公害対策基本法が,昭和43年6月には大気汚染防止法が制定され,この2つの法律による,大気汚染の常時監視と緊急時措置の業務が都道府県に義務付けられることになった.常時監視とは,公害対策基本法を受けて昭和44年に設定された環境基準にその地域の汚染状況が適合しているかどうかを監視することであり,緊急時措置とは,大気汚染濃度が緊急時の基準を超えたときに指定工場に連絡して良質の燃料に切り替える等の指令をすることであった.
 このことを考慮すれば,酸性雨の場合には国内的には国際的にも規制の法的根拠がないことがモニタリングの基盤を脆弱にしている.本特集では,法的根拠のないなかで国ならびに自治体はどのように酸性雨モニタリングを継続・発展さていくのか,また,モニタリングの成果が行政施策や技術的対策に具体的にどのように反映されてきたか,また湿性沈着や乾性沈着のモニタリングデータが生態系影響や文化財影響調査研究にどのように活用されているのか,さらにはどのようなデータが蓄積されればより高度な活用がされるのか,等を整理した.
 本特集は,本年10月に秋田市で開催された第45回大気環境学会での「酸性雨分科会」での「酸性雨長期モニタリングの課題」での発表内容を中心にしてまとめられたものである.
 最初に玉置は,「酸性雨モニタリング成果の行政的・技術的対策への活用」と題して,国レベルでの活用,自治体レベルでの活用の現状と課題を整理した.これは,法的根拠が不十分な状況下で,自治体研究者や行政担当者の不安感をも反映している.北村洋子氏(宮城県保健環境センター)は「一地方自治体における酸性雨モニタリングの現状と今後の課題」と題して,得られたモニタリングデータの自治体レベルでの活用を説明している.そして,モニタリングにおいては,湖沼,土壌,建造物および森林生態系等の専門分野の機関とのネットワークを構築することが重要であるとしている.
 小川信明氏(秋田大学工学資源学部)は「秋田の酸性降水・霧の長期フィールド調査結果と今後の展望」と題して,長期間にわたって,秋田県で酸性雨や酸性霧調査を行ってきた成果とその活用方法を示している.成果の向上のためには個別項目の測定から総合的な研究の構築が必要であることを述べている.伊豆田猛氏(東京農工大学大学院共生科学技術研究部)は「酸性雨モニタリングデータの植物影響研究への活用と行政施策への反映」と題して,自らの研究成果をまとめそれらがどのように活用されてきたかを具体例で示している.そして,酸性雨モニタリングで得られたデータを植物影響研究で活用し,最終的にはみどりのための環境基準値の制定などの行政施策に反映させる考えを示しており,「継続は力なり」という言葉は,まさしく酸性雨モニタリングにも当てはまると力強く結んでいる.