「環境技術」2005年5月号 記事情報

掲載年 2005
巻(Vol.) 34
号(No.) 5
321 - 321
記事種類 特集のねらい
記事タイトル 「水環境における自然再生プロジェクト」特集
著 者 上月康則
第1著者ヨミ こうづき
第1著者所属 徳島大学大学院
要 旨
特集タイトル 水環境における自然再生プロジェクト
特集のねらい  自然再生推進法が施行された当時,各方面からこの法律に期待する声が聞かれた.また“20世紀の負の遺産である劣化した自然環境を再生し,次の世代に引き渡すことは現世世代の責務であること”への異論も少ないし,いま地球上で6回目の生物種大量絶滅の時代にあることを考えると,「もっと自然再生事業が活発となっていても良いはず」と考えるのは私だけであろうか?ここでは,法律施行後,2年間で考えてきた自然再生の事業に必要な4つの要件や課題を述べ,特集では水環境における自然再生プロジェクトの事例紹介を行う.
 (1)「その地域に望ましい自然とは何か?」の問いに答えることは簡単ではない.例えば,生物多様性保護の観点から示されたものと,地域住民の望むものが相反することがしばしばある.また自然再生によって不利益を被る人がいる場合や各々の自然観が異なる場合には,学術的な観点から教条的にならず,その地域の社会特性を考慮し,合意可能な目標を適切に設定する必要がある.(2)自然再生のための技術開発が遅れている.技術化にあたっては小規模な現地実験で小さな失敗を繰り返しながら少しづつ完成度を高めていく必要があるが,失敗例が公開されないために,同じ失敗を繰り返している場合がある.実験の仮説が明確にされた上での失敗は成功へのプロセスとみなし,その失敗例を共有化し,活かされなければ,技術の進歩はない.(3)自然再生の運営組織づくりにも課題がある.環境劣化の悪循環を自然生態系による自律的な好循環とするためには,環境のモニタリング,維持管理,時には事業内容の修正などきめ細かな作業を長期間続けていくことが必要となる.このような時間と手間を要する一方で,費用対効果の発現が明確でない自然再生事業は,従来の公共事業の性格には馴染まない.そこで事業推進のためには,地域住民が中心となり,行政と専門家が支援するといった連携が必要となる.また3者の関係を維持,運営していくためには信頼のおけるコーディネーターと事務局が欠かせない.(4)事業の社会的受容性を向上させることを怠ってはいけない.「生き物の好きな人達だけでやっている」という声が地域の中で聞かれないように,“無関心層”に向けても絶えず情報発信や啓発活動を行い,地域全体が取り組む参加型事業となるように,努めなければならない.
 以上,自然再生事業の面倒なことばかりを挙げたが,これらの問題を克服するためのヒントは従来の“ビオトープづくり”や“住民参加型街づくり”の中にあると思われる.また自然再生は自然・社会科学の英知と地域の知恵を集結させて取り組む,自然環境を中心とした地域づくりといった見方もあり,そこに参加することのやりがいもある.
 本特集では,このような状況の中でも着々と推進されてきた自然再生事例を紹介する.なかには自然再生という言葉が生まれる前から着手されてきたものもあり,その先見性と粘り強い取り組みには敬意を表する.まず尼崎港と沖縄県・サンゴ再生の2件の事例は主に技術についての報告で,英虞湾・干潟造成,霞ヶ浦・アサザ再生の事例は参加型の自然事業へと発展させることに成功した事例である.またフロリダ州キシミー川再蛇行化事業はわが国でも有名な事例であるが,土地買収に関する法制度などの社会環境整備の観点から紹介されている.このように,ここでは数例しか紹介できないが,『自然再生を語る全国大会』のような場が設けられ,情報交換や知見の共有化が活発になれば,自然再生の関心や取り組みもより一層活性化されるに違いない.