「環境技術」2009年12月号 記事情報

掲載年 2009
巻(Vol.) 38
号(No.) 12
841 - 841
記事種類 特集のねらい
記事タイトル 「メタン発酵技術の新しい展開」特集
著 者 李 玉友
第1著者ヨミ LI
第1著者所属 東北大学大学院
要 旨
特集タイトル メタン発酵技術の新しい展開
特集のねらい  「メタン発酵」とは嫌気的条件下においてメタン生成古細菌を中核とする嫌気性微生物の代謝により有機性物質がメタンに転換される生物学的プロセスのことである.湖沼及び河川の底泥において嫌気性微生物群の代謝により可燃性ガス(バイオガス)が生成することは古くから知られている.欧米の文献では1776年イタリアの物理学者 Alessandro Volta によって初めて報告されたとしている.また中国の文献では古くから「沼気」(もともと沼から発生するガスの意味)の記載があると言われている.この生物化学的反応をうまくコントロールしないと,地球上の温室効果ガスCH4が増えてしまう可能性がある.一方,自然生態系で行われている生物学的メタン生成現象を工学的に利用すれば,嫌気性消化(汚泥処理などの分野)嫌気性処理(排水処理の分野),メタン発酵(発酵分野)といった環境保全技術になる.
 日本における下水汚泥の嫌気性消化は1932年に名古屋で初めて導入された.その後,東京,大阪,横浜,京都などの大都市の下水道で普及し,現在全国で発生する下水汚泥の約1/3(DSベース)は嫌気性消化法で処理されている.この方法で得たバイオガスは一般的に消化ガスと呼ばれ,消化ガス発電を行うと,下水処理場のエネルギー消費量の約50%を賄えることが報告されている.工場廃水処理における嫌気性処理技術の応用は1950年代から研究され,1960年代から完全混合式反応槽または嫌気性活性汚泥法はアルコール発酵廃液をはじめ,パルプ廃液などの高濃度廃水の浄化処理に用いられていた.特に1980年代 UASB法が開発された後,嫌気性処理の高効率性(高負荷,省エネルギー,余剰汚泥発生量の抑制の諸機能)が広く認識され,現在 UASB法とEGSB法は合わせて300基以上が建設され,高濃度有機性廃水処理の代表的な技術となっている.
 21世紀に入り,持続可能な社会の形成のために,2002年に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定され,バイオマス利活用の推進が図られてきた.2006年には同戦略の改定が行われ,バイオ燃料に注目が集まった.日本政府の目標では2030年までに輸送用バイオ燃料の導入量を原油換算 400万kL/年にするとしている.一方,筆者の試算によれば,国内で発生する代表的な廃棄物系バイオマスである家畜排泄物(年間約 8900万t)生ごみ(年間約2200万t)および下水汚泥(年間,約7500万t)を全てメタン発酵してメタンガスを回収すれば,バイオ気体燃料として原油換算で395万kL/年ものエネルギーが得られる.したがって,メタン発酵技術はバイオ燃料生産手段として極めて有力な技術である.メタン発酵により生成したバイオガスの利活用方法については次のような技術はすでに確立されている.
1) バイオガスボイラー
2) ガスエンジンやガスタービンによる発電
3) 都市ガスとしての燃料利用
4) 天然ガス自動車の燃料
5) 燃料電池による高効率発電
 メタン発酵の用途はバイオ燃料の生産だけでなく,廃棄物の安定化・衛生化処理,液肥の製造(家畜排泄物の処理),温室効果ガスの削減など多彩である.そのため,メタン発酵によるバイオマス利活用は近年様々な分野で注目されている.
 このような最新状況を,より具体的に皆様にご紹介するために,表記のテーマで本特集を企画した.今回は,メタン発酵研究分野の第一人者である野池達也先生に総括レビューをお願いし,また下水道分野および農水分野で活躍しておられる島田正夫先生および岡庭良安先生の他に,技術応用の第一線で活躍している民間企業の技術者にそれぞれ得意な技術をご紹介いただいた.
 最後に,本特集の内容は皆様にとって参考になることを期待するとともに,執筆にご協力いただいた著者各位に心より厚く御礼申し上げる.