「環境技術」2010年7月号 記事情報

掲載年 2010
巻(Vol.) 39
号(No.) 7
385 - 385
記事種類 特集のねらい
記事タイトル 「ストリートキャニオン」特集
著 者 河野 仁
第1著者ヨミ KONO
第1著者所属 兵庫県立大学
要 旨
特集タイトル ストリートキャニオン
特集のねらい  ストリートキャニオンはビルの谷間にある道路の意味である.これまで,ストリートキャニオンは自動車排ガス拡散予測の研究対象とされ,風洞実験による知見の集積があり,数多くの自動車排ガスの拡散モデルが開発された.また最近では,新たに,都市のヒートアイランドの視点からストリートキャニオンが注目されており,自動車からの排熱が街路空間の気温へ与える影響や「風の通り道」としてのストリートキャニオンの研究が行われている.
 都市空間の通風性に関する研究は,ドイツのシュツットガルトを対象にして行われている.シュツットガルトは風の弱い内陸の都市であり,冬季の大気汚染対策として,都市の換気を高める必要があった.シュツットガルトは緩やかな起伏を持つ丘に囲まれており,夜間に斜面下降流が発達する.そこで,この流れを都市内に導き入れるために,流れを堰き止める位置に高い建物を建てないような都市計画を行った.日本においてはシュツットガルトとは目的が異なり,夏場のヒートアイランド対策として,街路空間に風を入れる研究が行われている.
 これは道路からの排ガスの拡散とは異なった視点からのアプローチであり,都市空間における拡散についての新たな糸口を与えることが期待される.さらに,ビルや道路面による日射の反射や日射により過熱された道路からの熱放射の研究も行われている.日射の反射や熱放射は,都市全体の気温に影響するだけでなく,直接人の体感温度に影響するので重要である.
 また,ヒートアイランド対策の一つとして,街路樹によって日射遮断することが,都市においてクールスポットの面積を広げる手段として有効であると考えられるところから,道路面を街路樹で日射遮蔽することにより街路の気温低減を図る研究が行われている.さらに,街路樹が通風を遮蔽すると,道路からの自動車排ガスの拡散が妨げられるので,通風遮蔽の起こらないように街路樹の密集度や配置を設計する研究も行われている1).都市建築物の高層化が進む中で,こういった,環境の複数の視点からのストリートキャニオンのデザイン設計を行うことは建築学においても新しいテーマになっている.
 一般に都市では道路面積の割合が高く,例えば大阪市では2008年時点で,市域面積の17%が道路面積(高速道路は含まない)である.また,都市で働く人や都市に住居を持つ人にとって,ストリートキャニオンは生活空間の一部である.それゆえ,ストリートキャニオンのデザインは都市のアメニティーを高める上で非常に重要であると考えられている.
 また,計算技術の面でも新しい動きがある.これまで,計算機のメモリー制限や計算時間がかかりすぎるという理由で技術的に困難であった都市における流れや乱流の計算を CFD(Computational Fluid Dynamics)を使って計算する技術の実用化の研究も,最近かなり進められてきている.これはパソコンのメモリー容量や演算速度の急速な向上に負うものである.本特集においても CFDに関していくつか触れている.
 本特集は,ストリートキャニオンからの自動車排気ガスの拡散について,これまでの研究をレビューし,解説するとともに,新しくヒートアイランド対策の視点から,道路の熱環境や通風性について現在のトピックスを含め,いくつかの視点から論じる.本特集が今後,都市の街路空間のアメニティーを高める上でヒントになってくれることを望むものである.

文 献
1)田村大,西山恵美子,河野仁;数値解析による街路樹が自動車排ガスの拡散に与える影響の評価,環境技術,39,(5),300-307, 2010.