「環境技術」2013年9月号 記事情報

掲載年 2013
巻(Vol.) 42
号(No.) 9
513 - 513
記事種類 特集のねらい
記事タイトル 「福島第一原発事故後の放射線環境リスク」特集のねらい
著 者 藤川陽子
第1著者ヨミ FUJIKAWA
第1著者所属 京都大学
要 旨
特集タイトル 福島第一原発事故後の放射線環境リスク
特集のねらい  本稿執筆時点で福島第一原子力発電所(第一原発)の事故から約2年半が経過した.第一原発をめぐっては,燃料デブリの取り出しと廃炉までの長い道のりがまだ残っている.しかも,同原発では,最近になって冷却水の貯蔵タンクからの汚染水の大量漏えいが判明し,当初,国際原子力事象評価尺度でレベル1という評価であったものを,レベル3として再評価する案を原子力規制委員会が出しているところである.
 放射線被ばくの健康影響に関する調査も進行中である.福島県では若年者の甲状腺診断が引き続き行われ,被ばく線量が低いグループで甲状腺に良性・悪性の腫瘍がある傾向が認められている.従来100万人に一人といわれてきた甲状腺がんであるが,この調査の結果,2011年度および2012年度に見いだされ,手術により確かめられた甲状腺がんはそれぞれ7例,5例(100万人当たりに換算すると174例,37例)となっている.チェルノブイリで甲状腺がんを発症した若年者の場合と比較すると著しく低い個人線量のグループに対してこのような結果が出たことで,放射線被ばくではなく,他の要因が関与しているのではないかとも考えられる.いずれにせよ,このような大規模な甲状腺の調査は行われた例がないことから,結果の解釈にはまだ時間がかかる見込みである.
 東日本大震災の被災地では,いまだに多くの人々がもとの居住地に帰還できていない現実がある.しかし,岩手県・宮城県で懸案であった災害廃棄物の処理は,予定どおり2014年春までに完了する見通しとなった.また,放射性セシウムの自然減衰と除染の進行で,いわゆる警戒区域であった地域の一部では,住民が帰宅できる条件が整いつつある.しかし,放射線被ばくへの懸念から,帰還の進まない地域の多いことも現実である.
 環境技術誌では,これまで,第一原発事故をめぐって,事故直後から緊急的な速報と特集を組んできた1,2).また,原発汚染水についても,その処理技術を中心にした特集を組んだ3).特に,今回の特集では,第一原発事故から今に至るまでの放射線のリスクとそれに対してどのような対応が行われてきたかについて,振り返ることとした.本特集の1番目では,事故発生直後の避難指示や食品安全・廃棄物対策・除染をめぐり,放射線防護の考え方に基づいて国が行った対策の概要等が茶山氏により紹介されている.続く福島県・片寄氏の解説では事故後の環境モニタリングと,福島県の環境を回復させ県の復興を行うための取り組みが紹介されている.特集の3番目には,長崎大学名誉教授・長瀧氏に,放射性ヨウ素による被ばくのリスクについて,チェルノブイリの経験から今の福島の現状まで含めて総括した解説を執筆頂いている.4番目に挙げた毎日新聞・小島氏による放射線のリスクに関する報道のあり方に関する解説では,「ニュースの大きさを決める方程式」が提示され,各種の報道が必ずしも公正中立にならない理由が解き明かされている.5番目には,筆者の経験に基づいて,放射性セシウムをわずかに含む災害廃棄物の広域処理に対する自治体と市民の反応について執筆させていただいた.なお,本特集の一部は,平成 24年度保物セミナー(主催:平成24年度保物セミナー実行委員会)での講演に基づいている.読者の方々の参考になれば幸いである.
参考文献
1)速報「福島第一原発事故の環境影響」,環境技術,2011年4月号.
2)緊急特集「軽水炉における原子力災害の環境影響」,環境技術,2011年5月号.
3)特集「原発放射能汚染水の浄化技術」,環境技術,2012年6月号.