「環境技術」2015年3月号 記事情報

掲載年 2015
巻(Vol.) 44
号(No.) 3
121 - 121
記事種類 特集
記事タイトル 特集のねらい(瀬戸内海の水環境の現状と改善の方向)
著 者 河原長美
第1著者ヨミ KAWARA
第1著者所属 岡山大学名誉教授
要 旨
特集タイトル 瀬戸内海の水環境の現状と改善の方向
特集のねらい 瀬戸内海は,高度成長期に深刻な汚染に見舞われたが,瀬戸内海法の制定と総量削減により,水質は大きく改善され,大阪湾を除く瀬戸内海については水質を悪化させないという方向へ施策が転換された. 瀬戸内海は水質改善が進んでいるが,A類型指定の海域は環境基準達成率は40%程度である.大阪湾は汚濁されているが,近年の水質改善傾向は顕著である.また,貧栄養化による漁獲減やN不足によるノリの色落ちが指摘されているが,赤潮発生件数は依然として年間100件程度報告されている.これらはどう理解すべきだろうか. 底質汚染は以前と比較して幾分減少しているがあまり変化していないとされる.一般に,底泥には大量の汚濁物が含まれており,分解や溶出によっては簡単には浄化されず,底泥直上水が清浄になると,直上水と底泥成分との交換作用(拡散)で底泥からの溶出が説明できるので,正味の溶出量は増加するはずだが,どうなっているだろうか. 漁獲については,速度は低減してきたが,依然として減少傾向が続いている.干潟や藻場の減少は止まり,微増してきている.今後の漁獲増には,どんな対策が必要だろうか.他方,黒潮の日本への接近他により,瀬戸内海の水質や漁業は影響を受けているのだろうか. 以上のような疑問に対して,瀬戸内海の水環境の現状の整理,メカニズムの解説,ならびに,今後の対策の側面に関して,6編の報告をいただいた. 「瀬戸内海の栄養度と漁業生産の動向」(兵庫県立農林水産技術総合センター 反田實他)では,灘ごと県ごとに分けて,漁獲量と栄養度の推移と現状を整理報告いただいた.貧栄養化と漁獲の減少の実態が報告されている. 「底質の状況と内部負荷」(大阪工業大学 駒井幸雄)は,1980年代以降の灘ごとの底質組成と溶出を整理・検討し,溶出実験方法によって値の変化が大きく,実験法統一の必要性と,少なくとも底質の悪化は生じていないことを報告している. 「栄養塩類負荷量の増減が瀬戸内海の生物生産(漁業)に及ぼす影響」(京都大学名誉教授 藤原建紀)は,黒潮の生態学的特性,瀬戸内の生物再生産場の減少,海洋生態系の特性等に基づき,栄養塩負荷量変化の漁獲への影響を報告している. 「貧栄養化にともなう生態系の変化と今後の施策に対する提言」(広島大学大学院 山本民次)は,削減N・Pの漁業への悪影響を指摘し,大阪湾以外の海域では流入負荷規制を緩和して,漁業生産と調和を図るべきと提言している. 「貧栄養化海域の水環境の現状と課題」(九州大学名誉教授 柳哲雄)では,富栄養化する過程と貧栄養化する過程では,栄養塩負荷量・濃度に対する漁獲量や赤潮発生件数が,ヒステリシスを示し,濃度が同じでも状態は異なること,ならびに漁獲改善には汚染底泥による貧酸素水塊の生成の解消と浅場環境の改善が必要であると指摘している. 「変化する大阪湾の水環境─港湾海域と沖合域との環境ギャップの拡大」(大阪市立大学大学院矢持進)は,大阪湾は水質改善されているが,大阪湾の湾奥港湾域とその他の海域とでは環境ギャップが大きくなっていること,港湾周辺海域では底層の最低溶存酸素は零付近であり,他方,湾口付近の有機成分は難生分解性の割合が高いことを指摘している.透過性防波堤で,利用されやすい港湾域の栄養塩の湾央への供給と港湾周辺域の水質改善を図ることを提案している.なお,下水の直接放流に際して,遊離アンモニアの魚類への毒性に注意喚起している. 本特集の中で提案されている対策の具体化は,これからであるが,瀬戸内海が豊かな里海として再生することを期待したい. 最後に,ご執筆をいただいた方々に深く感謝を申し上げます.