「環境技術」2016年4月号 記事情報

掲載年 2016
巻(Vol.) 45
号(No.) 4
169 - 170
記事種類 特集
記事タイトル 温室効果ガスの新たな削減目標と実現に向けた対策技術
著 者 藤田眞一
第1著者ヨミ FUJITA
第1著者所属 藤田環境技術士事務所
要 旨
特集タイトル 温室効果ガスの新たな削減目標と実現に向けた対策技術
特集のねらい 昨年11月30日から12月11日にパリにおいて,国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催された.このCOP21においては,京都議定書では先進国のみが削減義務を負っていたものが,すべての締結国(196ヵ国)が参加するという画期的な内容を含む合意(パリ協定)がなされた.その内容をまとめると,次のとおりである.
・世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えることが掲げられたこと.また,海水面の上昇から海抜の低い国を守るため1.5℃以内に抑えることの必要性にも言及された.
・主要排出国を含むすべての国は,すでに国連に提出している排出量削減目標を含め,2020年以降,5年ごとに目標を提出・更新していく.また,実施状況を報告し,レビューを受けることになった.
次のタイミングである2020年では,2025年目標を掲げている国は2030年目標を提出し,2030年目標を持っている国は,再度目標を検討することになる.この際には,原則として,それまでの目標よりも高い目標を掲げることになる.
・長期目標として,21世紀後半には,世界全体の温室効果ガス排出量を森林・土壌・海洋が自然に吸収できる量にまで収めるという目標が掲げられた.
・JCM(二国間クレジット)も含む市場メカニズムの活用が位置づけられた.
・森林等の吸収源の保全・強化の重要性,途上国の森林減少・劣化からの排出を抑制する仕組が位置づけられた.
・支援を必要とする国への資金支援については,先進国が引き続き資金を提供することと並んで,途上国も自主的に資金提供を行っていく.
・仙台防災枠組についての言及.また,議定書発効は,世界の温室効果ガス排出量の55%以上を占める55ヵ国以上の批准が必要とされた.
なお,パリ協定では,削減目標の達成は義務づけられておらず,各国の自主性に委ねられる面が大きい.このため,先に挙げた削減目標に向けた取組みや,他国への支援等について,定期的に計測・報告し,かつ検証することが盛り込まれた.
COP21に先立ち,日本の約束草案として2030年度に2013年度比26.0%減(2005年度比25.4%減)の水準(約10億4,200万t―CO2)を提出したところである.これは,2015年7月に決定された「長期エネルギー需要見通し」(エネルギーミックス)と整合なものとなるよう,技術的制約,コスト面の課題等を考慮して,対策・施策や技術の積み上げによる目標として算定された数値である(本誌2016年1月号4〜9頁参照).京都議定書の第一約束期間(2008年度〜2012年度)の目標である1990年度比6%減(11億8,600万t―CO2)からみても,今回の目標10億4,200万t―CO2という排出量はかなり厳しい削減目標である.また,パリ協定では,各国は5年ごとに目標を更新していくこととされており,今後,さらに厳しい目標の設定が求められる可能性が大きい.また,長期的には2050年に向けたさらなる大幅な削減が必要となる.
2013年度比26.0%減という温室効果ガスの新たな削減目標,また,予想される5年ごとの目標更新,さらに長期的な大幅削減に対処するためには,省エネ,再生可能エネルギー等の技術的な対策,また,低炭素化社会を実現するための都市構造の在り方も含めた温室効果ガス削減に向けた対策が必要となり,あらゆる意味で,環境の科学・技術が重要となる.
本特集においては,温室効果ガス削減に向けた対策技術のうち,@太陽光,風力,中小水力,バイオマス,地熱などの再生可能エネルギーについての我が国の取組み,A再生産されている生物により固定された炭素に由来するため燃焼してもCO2を出さないバイオマスのうち今後の発展が期待される藻類によるバイオ燃料,また,B都市構造そのものの低炭素化を目指した都市づくりにおける未利用エネルギーの活用や省エネルギー化を目指した都市のエネルギーシステムの構築,さらに,C温室効果ガス削減対策の重要な選択肢の一つである化石燃料の燃焼によって生成されるCO2を分離回収して貯蔵するCO2固定化技術を取り上げ,これら対策技術の現状とさらなる温室効果ガス削減に向けての課題について特集する.
2011年3月の東日本大震災による福島第一発電所の事故以降,我が国のエネルギー事情は深刻化を増している.海外からの輸入にたよる化石燃料への依存度が高まり2014年度において87%となっている.また,エネルギー自給率も2013年時点において6.2%である.このような我が国のエネルギー事情,原子力発電に関する懸念の中,太陽光,風力,中小水力,バイオマス,地熱などの再生可能エネルギーへの期待が高まっている.約束草案の温室効果ガス排出量の算定の基となった長期エネルギー需要見通しにおいても,2030年度の再生可能エネルギーの目標値は22〜24%とされている(本誌2016年1月号46〜51頁参照).また,同需要見通しにおいては,電力コストを現状より引き下げるとされており,再生可能エネルギーの普及に当たっては,コスト面も重要である.本特集では,我が国の再生エネルギーの普及支援事業を担っているNEDO の取組みを中心に,再生エネルギー普及の課題と現状について,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新エネルギー部の山家美歩氏に解説をいただく.
また,カーボンニュートラルな燃料としてのバイオマスのうち藻類によるバイオ燃料生産については,藻類は,生物種の多様なこと,河川,湖沼,海洋だけでなく温泉や氷海なども生息可能であり,多様な環境の中で生産ができる特徴がある.また,バイオ燃料としても,藻体の構成成分そのものを変換して可燃性化合物として利用する方法,藻類自身が生産するメタン,エタノール,水素等の可燃性化合物を利用する方法など,多様な利用方法があり,今後の有望な再生可能エネルギーとして期待されている.藻類由来のバイオマス燃料生産研究の現状と課題について,東京大学大学院農学生命科学研究科の岡田茂准教授に豊富な研究事例を基に解説をいただく.
家庭及び業務部門からの温室効果ガス排出の占める割合は2014年度で約38.2%であり,都市活動における温室効果ガスの排出削減は重要である.都市づくりにおける低炭素化については,2012年12月に「都市の低炭素化の促進に関する法律(エコまち法)」が制定され,幾つかの自治体においても「低炭素まちづくり計画」が策定されている.本特集においては,低炭素の観点から見た我が国の都市のエネルギーシステムの課題,日本やヨーロッパにおける地域熱供給の現状,今後の都市エネルギーシステム構築の視点,都市のエネルギーシステムの今後の展望について,横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院の佐土原聡教授に解説をいただく.
全国の火力発電所から排出されるCO2は2013年度で5億4,800万トンであった.排出ガス中のCO2を分離回収する技術はそれ程難しいものではないが,仮に火力発電所から排出されるCO2を全量分離回収した場合,毎年この量のCO2が蓄積されることになる.これをドライアイスとして利用するとした場合,我が国のドライアイスの生産量は2007年度で約30万3,400トンであり,実にドライアイス生産量の1,800年分に当たる等,分離回収したCO2の有効利用は困難である.このため,分離回収したCO2は別途安定的に貯蔵することが必要である.火力発電所や製鉄所から排出されるCO2を分離回収し貯蔵するCO2固定化技術は,まさしくダイレクトに大気環境中へのCO2排出を削減する即効的な技術である.本特集では,貯蔵技術の中でも最も期待される地中埋蔵技術を中心に,公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)CO2貯留研究グループの薛自求主席研究員に,世界及び我が国の現状と実用化に向けた課題について解説をいただく.
本特集が,温室効果ガス削減のための科学・技術発展の一助となれば幸いである.