「環境技術」2016年12月号 記事情報

掲載年 2016
巻(Vol.) 45
号(No.) 12
619 - 619
記事種類 特集
記事タイトル 特集のねらい(風力発電普及のために―風車騒音の特性とその評価について―)
著 者 河野 仁、松井敏彦
第1著者ヨミ KOUNO
第1著者所属 兵庫県立大学名誉教授
要 旨
特集タイトル 風力発電普及のために―風車騒音の特性とその評価について―
特集のねらい IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると,地球の平均気温上昇を2℃未満にするためには,2050年に先進国では,二酸化炭素排出量を80〜95%削減する必要があると提言されている.そのために,化石燃料を急速に自然エネルギーに転換していくことが必要である.自然エネルギー導入が盛んなヨーロッパで,風力は最も有力視されており,バイオマス,太陽光よりも多い.大型風車の1kWh 当たりの発電価格は,2013年,日本でも石炭火力と大差ない,10円/kWh である.また,環境省の調査によると日本の風力発電の導入ポテンシャル(設備容量)は陸上だけで現在の電力会社の発電設備容量の1.4倍,海上を入れると9倍ある.そこで,地球温暖化対策の最も現実的な技術は風力発電を大幅に増やすことだと筆者は考えている.風車の最大の問題は風車騒音にある.風車建設反対の住民運動も生じている.風車にはこの他に,シャドーフリッカー,すなわち,ロータの回転に伴いその影が明滅する現象,による苦情があるが,その影響範囲は騒音と比べると小さい.バードストライクも言われるが,統計によると野鳥の死亡で多いのは,ビルやガラス窓,架線類,猫,自動車,農薬,通信塔であり,風車による死亡は全体の0.003%と,きわめて小さい(松宮W,風力発電挑戦から未来へ―原発事故後のエネルギー,東洋書店,2012).風車騒音で議論になっていることは,@風車からの距離と被害住民からの苦情の関係,A現在の環境基準(夜間住居地域45dB)を風車騒音に使うことが妥当か,B騒音被害を発生させている音の周波数(20Hz 以下の超低周波を含む),C低周波音の感受性の個人差等である.環境省の「風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会」で橘秀樹代表(東京大学名誉教授)らによって,風車騒音の調査,検討が行われ,2016年11月に検討会報告書「風力発電施設から発生する騒音等への対応について」が出された.本特集では,橘氏に「風車騒音の実態と特徴」,桑野園子氏(大阪大学名誉教授)に「風力発電施設から発生する音に対するうるささと苦情について」,環境省の行木美弥氏らに同検討会報告書の概要「風力発電施設から発生する騒音の評価について」をご執筆頂いた.桑野氏によると,風車騒音は1q離れても,多少うるさいという人が15%あり,かなり小さな音(夜間30dB)でも多少うるさいと感じる人が30%弱ある.その理由として,風車は山中など人工の音源のほとんどない場所に設置され,風車音は小さくても住民に容易に識別できる.また,風が吹いている間は鳴り続ける.そのため,環境省の検討会では,「残留騒音が30dB 以下の静かな場所における風車騒音の評価基準は35dB」という環境基準より10dB 厳しい値が提案されている.低周波音は難しい問題が重なっている.風車からはブレードの回転に伴い約1Hz の周期的な超低周波音が出ている.従来から低周波音の測定値は風の影響が含まれるという,測定技術上の困難があったが,橘氏らのグループは独自のフィルターを開発し,風速変動の影響を除去している.そのようにして得られた野外観測値を使って,室内での聴感実験を行い,風車騒音として聞こえている音は20Hz 以上の可聴音域にあるとしている.なお,低周波音については,本稿では扱わなかった,内耳の前庭器官で感じる圧迫感,振動感を重視する研究者(松井利仁氏)もあり,さらに研究と議論が必要と思われる.本特集が,風車騒音問題の解決にいくらかでも寄与することを期待したい.