「環境技術」2019年6号 記事情報

掲載年 2019
巻(Vol.) 48
号(No.) 6
299 - 299
記事種類 特集
記事タイトル 特集のねらい <環境・資源保全に資するメタルバイオテクノロジー>
著 者 池 道彦
第1著者ヨミ IKE
第1著者所属 大阪大学大学院工学研究科
要 旨
特集タイトル 環境・資源保全に資するメタルバイオテクノロジー
特集のねらい 人類の豊かな生活は,非金属,半金属を含めた 多様な金属(ここでは金属類と称する)の利用に 支えられてきた.紀元前5500年頃に古代ペルシャ で銅精錬が行われるようになったのが,人類の金 属利用の始まりとされるが,その後,青銅器,鉄 器の時代を経て,現代では,周期表上にあるあらゆ る金属類が多岐にわたる用途で用いられている.
金属類の利用は一方で,深刻な環境汚染問題を 引き起こしてきた.4大公害のうち実に3つの原 因が,水銀(水俣病,第二水俣病),カドミウム (イタイイタイ病)という有害金属であったこと は象徴的である.最近では,多様な金属類の利用 により,水銀,カドミウム,鉛,クロムのような 典型的な有害金属ではない新たな金属類による環境汚染が懸念されるようになり,レアメタル汚染 とも称される.平成以降にセレン,ニッケル,モ リブデン,アンチモン,マンガンなどの金属類元素が,新たに水質や土壌の環境基準項目や要監視 項目に加えられたことは,この懸念を反映してい る.これら新たに環境汚染物質として認識されるようになった金属類に対しては,排水,土壌中からの有効な除去法が確立されているとはいえず, 汚染防止のための技術開発が求められている.
金属類利用に関連しては,環境汚染とともに資 源枯渇が常に大きな問題として認識されている. 一義的には金属類の供給は地下資源に依存するた め,需要が鉱山の埋蔵量を上回れば枯渇してしま う.リサイクルを行えば資源枯渇は延命できるが, 廃製品,廃材レベルのリサイクルが十分に進んで いるアルミニウムを例にしても,我々の試算では 70%が回収されているに過ぎず,排水中や焼却灰 に含まれている30%は回収されず無効に捨てられている.また,多くのレアメタルの精錬工程においては,数十%のオーダーで排水中への損失がある.真に持続可能な金属類の利用を可能とするた めには,現状ではリサイクル対象とされていない 排水や焼却灰等からの金属類の回収技術を確立し,その完全リサイクルを実現していくことが必 要となる.
金属類利用を巡る環境・資源の両問題の解決に資する,排水,廃棄物等からの金属類除去・回収は,従来は凝集沈殿,吸着,イオン交換,電解等 の物理化学的技術によって行われてきた.しかし,これらの既存技術は一般的に高コストであり,大きなエネルギー消費を伴い金属類の問題を二酸化 炭素の問題に転嫁してしまうという課題がある.特に,排水,廃棄物のように,除去・回収の対象 となる金属類が低い濃度で,複雑な組成のマトリックス中に含まれている場合には,効率が著しく低下してしまう.この既存技術の限界を打ち破 り,排水,廃棄物からの有価金属回収を可能とするアプローチとして,生来,低コストで省エネ性のあるバイオ技術の利用が提案できる.特殊な金 属類代謝を有する微生物により,その三相(固/ 液/気相)間の変化,溶解性・吸着性の増減など の反応を引き起こし,金属類の固相からの抽出,水相からの除去・回収などに応用する試みであ り,『メタルバイオテクノロジー』と呼んでいる.
『メタルバイオ』は,もとは私的造語であり,本特集で第1席を執筆いただいた山下光雄先生(芝浦工 業大学)らと,この造語を冠した研究委員会を生物 工学会内に2007年立ち上げた(2016年まで継続)のが世に出た最初である.10年以上が経過した現在では,『メタルバイオ』という言葉がこの委員会以 外でも使われるようになり,ある種の市民権を得つつあるように感じている.特筆すべきは,第2席に執筆いただいたように,企業ベースでの実用技 術の開発が行われるようになってきたことであろ う.本特集では,人類の金属類の持続利用に貢献するために研究されてきた,『メタルバイオ』による一連の環境・資源保全技術を紹介する.多忙な中, 原稿執筆をいただいた執筆者各位に感謝したい.