「環境技術」2020年6号 記事情報

掲載年 2020
巻(Vol.) 49
号(No.) 6
295 - 295
記事種類 特集
記事タイトル 特集のねらい
<水域環境におけるプラスチック汚染の現状と研究の到達点>
著 者 古武家善成
第1著者ヨミ KOBUKE
第1著者所属 元神戸学院大学
要 旨
特集タイトル 水域環境におけるプラスチック汚染の現状と研究の到達点
特集のねらい  プラスチックの海洋流出は今や年間800万t を超えるとも推定され,海洋のゴミ問題の主要な課題として注目を集めている.2019年6月末に大阪で開催されたG20サミットでは,「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有され2050年までにプラスチックによる海洋汚染をゼロにする目標が掲げられた.このように水域(海洋)環境におけるプラスチック汚染問題では,対策に向けた全世界的な流れが動き出しているようにみえる.
 しかし,G20サミットのビジョンに関しても,2018年のカナダのG7サミットにおける海洋プラスチック憲章に比べると後退しているとの批判が出されたり,米国と日本がG7サミットの憲章に署名しなかったりで,対策に向けた動きは必ずしも1本の大きな流れになっているわけではない.
 本特集では,このように国内外で大きな問題になっているプラスチック汚染問題を取り上げた.ただ,“プラスチック汚染問題”と特定すると,廃棄物問題を思い浮かべられる読者もおられるかもしれない.確かに5席では,プラスチック廃棄物全体の環境への影響について視野を広げて執筆いただいたが,他の4論文で取り上げられたのは,粒径5o以下の微粒子状のマイクロプラスチック(MPs)である.その生成は,大きなプラスチックが自然環境中で紫外線や波などにより微粒子化した場合(二次的MPs)と最初から微粒子状のスクラブ材として洗顔料や歯磨き粉等に含まれ環境中に流出する場合(一次的MPs)がある.
 MPs に焦点が当たったのは,プラスチックの形状がミクロな状態であれば環境の隅々まで拡散され,生物にも食物連鎖を通して直接的に影響を及ぼす可能性が生じているためと考えられる.そこで,多くの環境汚染物質と同様にMPs に関しても,分析方法の開発,環境中での濃度と分布の把握,下水処理場など排出過程での挙動の把握,生物への取り込み・蓄積・体内動態などが研究されてきた.本特集でも,このような研究の流れに沿う形で,各分野の専門家に執筆いただいた.
 1席は,京都大学大学院地球環境学堂准教授の田中周平氏らに,「都市水循環系におけるマイクロプラスチック汚染の現状」というタイトルで,分析法の開発や膨大な環境データについて整理いただいた.
 2席は,九州大学大学院農学研究院教授の大嶋雄治氏に,「生物によるマイクロプラスチックの細粒化とその体内動態」というタイトルで,生物実験の結果を踏まえた生物へのリスクについて詳述いただいた.
 3席は,熊本大学大学院先端科学研究部准教授の中田晴彦氏らに,「淡水・陸域環境のマイクロプラスチック汚染の実態把握と起源推定」というタイトルで,疎水性環境汚染物質の環境中での運び屋(ベクター)としてのMPs に関する調査・解析結果を論述いただいた.
 4席は,大阪府立環境農林水産総合研究所生物多様性センター自然環境グループリーダーの相子伸之氏らに,「淀川ワンドの底泥と二枚貝におけるマイクロプラスチックの汚染実態」というタイトルで,淀川本流およびワンドに生息する二枚貝の汚染状況について報告いただき,MPs が擬糞として排出されている実態が明らかにされた.
 5席は,京都光華女子大学キャリア形成学部准教授の高野拓樹氏に,「プラスチックの市場動向―その恩恵と負の遺産―」というタイトルで,プラスチック産業全体の物質収支やリサイクルの状況,MPs 汚染の問題点などについて記述いただいた.
 現在のコロナ禍により,緊急事態とはいえプラスチック製品を無批判に利用する風潮が戻りつつある.With-corona 時代の新しい生活様式でも,プラスチック使用削減の意識を持ち続ける必要がある.