「環境技術」2020年6号 記事情報

掲載年 2020
巻(Vol.) 49
号(No.) 6
337 - 341
記事種類 講座
記事タイトル 環境の分析技術・データ解析・モデル化講座 U.環境のデータ解析・モデル化+量子化学計算ビギナーズガイド
著 者 庄司光男
第1著者ヨミ SHOJI
第1著者所属 筑波大学
要 旨 1.はじめに
 化学,生物学,創薬分野において,分子構造や物性(電子状態特性,反応性)を正確に解明することは,学理的探求のみならず,応用するために非常に重要である.近年では,計算機の進歩により計算科学的アプローチが容易になり,計算精度が高い手法を利用できるようになっている.それにより,実験結果の検証としても広く用いられるようになっている.本稿では,様々な計算科学アプローチの中でも,量子化学計算の利用に焦点を当て,専門外の方を読者対象として,基本的事項について解説していく.
 まず,計算科学アプローチから確認していこう.代表的な計算科学手法を3つ挙げるとすれば,(1)量子化学,(2)古典分子動力学,(3)インフォマティクスであろう.
 (1)の量子化学では量子力学(QM)に従い,電子状態から決定していく.そのため,高精度であるが,100原子程度までで構成される小分子を取り扱うのが主な守備範囲である.量子化学計算手法には,実用的な密度汎関数法(DFT)のみならず,計算精度の高い非経験的計算手法(ab initio法)や計算速度に重点を置いた経験的計算手法(PM7)などがある.計算する系の大きさや求める計算精度,計算時間によって適切な手法を選択する必要がある.
 (2)の古典分子動力学では古典力学(CM)に従い,個々の原子核(質点)に対する運動方程式(時間発展)を解く手法である.原子核間に働く力(相互作用)はモデル関数(力場)で表現する.それにより,生体分子(蛋白質,核酸,糖)や高分子材料など,分子量の大きな系(数十万原子系)を取り扱うことができる.適切な力場の選択や作成が必要になってくる.
 (3)のインフォマティクスでは,大量のデータに対して情報学的処理を行う.データの蓄積,分析,解析及び推定を行うことで,最適化や設計,予測,管理に活用する.近年,多くの分野で利用がなされており,なかでも機械学習や深層学習(ディープラーニング)における複雑な計算や様々なアルゴリズムを高速に実行できるようになったことで,画像処理や自然言語処理での利用が特に進んでいる.
 以上のことからも,量子化学計算が活躍する場面は,小分子の構造予測,生成熱や相互作用解析,物性量の解析と予測,および化学反応の解明であろう.それぞれ,構造最適化,エネルギー計算,応答量計算(紫外可視吸収スペクトル,赤外吸収スペクトル)および遷移状態探索により,正確に検討することができる.計算結果は構造解析(X線散乱,核磁気共鳴)や分光測定,反応速度解析をすることで,実験結果と直接比較することができる.しかしながら,大規模モデルの利用や時間発展については,計算時間の制限が存在するため,様々な工夫をすることが必要となっている.それらに対しては別の機会で解説するとして,本稿ではより基本的事項,典型的な量子化学計算に対する効率的な始め方(基本事項)について見ていこう.
キーワード:計算科学、Gaussian16、Gaus Viiew 、計算機、計算手順
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